Quantcast
Channel: フィリピン・ネグロス島(主にバコロド)の話
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2208

ミンダナオの和平?

$
0
0

 韓国とほぼ同じ広さで豊富な天然資源を有し、人口は2千万人を数える。まるで国家のようだが、実はフィリピン南部にあるミンダナオ島のことだ。
 
 この島では、イスラム系武装勢力「モロ・イスラム解放戦線(MILF)」とフィリピン政府の40年にわたる紛争が終わりを告げ、和平プロセスを進めていた。和平合意は、日本政府がお膳立てした、珍しい外交成果の事例だった。ところが、その歴史的和平が頓挫の危機にひんしている。もし紛争の悪夢が再び訪れれば、アジア有数の高い成長を続けるフィリピン経済への打撃だけでなく、日本企業の活発な投資にも影響するのは避けられない。
 
 和平の機運が揺らいだきっかけは、1月25日に同島マギンダナオ州で起きたフィリピン国家警察特殊部隊とMILFなどとの衝突だ。特殊部隊が通告無くMILFの支配領域に侵入したとして双方の戦闘に発展し、特殊部隊の44人が死亡した。
 
 特殊部隊が出動したのは、東南アジアのイスラム過激派ジェマ・イスラミア(JI)の容疑者を逮捕するためだった。なぜ、通告無く侵入したのかなど詳しい状況は不明だが、この衝突がフィリピン政界にくすぶっていた和平への懸念を呼び起こしてしまった。
 
 MILFと比政府は、2012年に和平の枠組みに合意。2016年の自治政府設立を目標に準備を進めており、国会では「バンサモロ基本法」が審議中だった。
 
 今回の衝突により国会審議はストップ。2月に入っても事態を打開する糸口は見えず、2016年の自治政府樹立は危うくなった。国軍出身のラモス元大統領は、「すべては大統領の責任だ」と強く非難。ミンダナオ和平を最優先課題としてきたアキノ政権への風当たりが強まっている。
 
 16世紀のスペイン統治の前から、同島にはイスラム教徒が多く暮らしていた。ところが、長いスペイン統治の間にキリスト教が広まったのに加え、1960年代のマルコス大統領の時代にキリスト教徒が入植を開始。これに一部のイスラム教徒が反発、銃をとって抵抗し始めた。同島ではMILFなどと比政府による内戦が40年以上続いた。
 
 その間、首都マニラは着々と成長を続けて、高層ビルが乱立する大都会になったが、戦場だったミンダナオ島の経済は疲弊した。島の人口の6割が貧困層とされ、マニラとの深刻な格差を生んだ。
 
 2010年に就任したアキノ大統領は、ミンダナオ和平を最重要課題に掲げた。フィリピン全体の成長を持続させるには、格差の解消と貧困層の底上げは欠かせないためだ。このままミンダナオ島の貧困層を放置すれば、永遠に武力紛争は終わらない。
 
 アキノ政権は、MILFと和平合意にこぎ着けた。ただ、和平に向けた準備は膨大な作業を要し、「2016年までに自治政府を樹立する」というスケジュールは、あまりにも短い。あと1年のうちに、MILFの戦士たちは武器を捨てて行政官や警察官に就かなくてはならない。
 
 なぜ、急ぐのか。フィリピンは大統領の再選を禁止している。そのため、アキノ政権は2016年6月までの任期中に和平を確実にしたいとの思いが強いのだ。次の大統領がミンダナオ和平を優先するという保証はない。
 
 もし、アキノ政権の任期中に基本法制定などの手続きが間に合わず、和平が頓挫すれば、フィリピン経済に与える影響は計り知れない。
 
 再び内戦に陥れば、内外企業の投資激減は必至だ。すでに2016年以降の和平や経済成長を見越し、小売り最大手のSMグループはミンダナオ島の4カ所にショッピングモールの建設を計画する。欧米企業も相次いでコールセンターの拠点などを設置しているが、こうした動きにも水を差すことになる。
 
 それだけではない。アキノ政権、フィリピンへの信頼は失墜する。アキノ大統領は、財政再建を進めて投資マネーを呼び込み、2014年には6%の経済成長を達成した。投資マネーが流入しているのは、政治混乱というイメージが払拭されたからにほかならない。
 
 和平にしくじれば、政治混乱と経済停滞を繰り返した暗黒の時代に逆戻りしかねない。現政権は「アキノ路線」をいかに次の大統領に引き継がせるかに力を入れるが、そのシナリオも狂うだろう。
 
 ミンダナオ和平は、「紛争解決から貧困削減、経済成長につながるモデル」として海外から高い注目を集める。フィリピン外務省によると1月の武力衝突以降、カナダやロシア、米国など9カ国以上が、改めて和平を支持する意向を表明した。
 
 日本もイスラム教徒を対象に行政官を育成する事業を支援するなど、和平を継続するための支援に力を入れる。2月にフィリピンを訪れたインドネシアのジョコ大統領は、アキノ大統領との会談でミンダナオ和平への持続的な協力を表明。ジョコ政権はフィリピンをモデルに財政再建による高成長路線をめざしており、肝心のお手本が崩れては元も子もないとの思いが強い。
 
 国際協力機構(JICA)は2013年、MILF本部の近くに現地事務所を開設した。そこでコーディネーターとして働く女性、サムラ・カロンさん(41)は80年代、戦火を避けるため家族で島を離れてマニラで暮らした。それから15年後、ミンダナオに戻った時に船の上から見た故郷は、貧しかった昔の姿から少しも発展しておらず、涙がこぼれたそうだ。「2人の子供たちには良い暮らしをさせてあげたい。安全になれば、開発や投資が進んで雇用も生まれる」との思いもある。
 
 こんな市井のイスラム教徒の願いを、フィリピンの政治家とMILFはどう受け止めているのか。アキノ大統領の任期は残り1年間。フィリピンが今後も高成長を維持できるのか、それとも紛争と経済の停滞に逆戻りするのか。ミンダナオ和平の行方が、それを左右することになる。
 
 そもそもミンダナオ島は、歴史的に日本人との関わりがとても深い場所だ。戦前は多くの日本人が職を求めて移住。最大都市のダバオに日本人が約3万人住み、マニラ麻の栽培や輸出などを営んでいた。現在はフィリピン人が日本や世界へ出稼ぎに出ているが、100年近く前までは逆の事象が起きていた。
 
 それだけではない。日本政府は、ミンダナオ和平を積極的に支援してきた。2011年、アキノ大統領とモロ・イスラム解放戦線(MILF)のムラド議長は成田空港の近くで極秘会談をした。和平合意の大きなステップとなったこの会談は、両者の日本政府への信頼なくして実現できなかった。
 
 紛争が長引いて開発が遅れて、つらい思いをするのは、ミンダナオの住民たちだ。取材をした女性が、平穏な暮らしを願って流していた涙が忘れられない。昔も今も日本と関わりの深いミンダナオの苦境に、日本人はもっと注目すべきではないだろうか。(日経新聞等より)





 フィリピン政府が反政府武装勢力モロ・イスラム解放戦線(MILF)と進める南部ミンダナオ紛争の和平プロセスに暗雲が漂っている。双方は2016年にイスラム系住民による新自治体発足を目指すが、1月下旬に警察とMILFの間で起きた交戦により国会で慎重論が広がり、関連法案の審議が中断。このままなら、紛争解決に積極的なアキノ大統領の任期中に和平を実現できない恐れが出て来ている。
 
 政府とMILFは2014年3月、新自治体発足に向け包括和平合意文書に調印。新自治体の権限などを定めた基本法が国会に提出され、政府・与党が3月中の可決を目指していたが、警察特殊部隊が1月25日、テロリスト逮捕のためミンダナオのMILF支配地域に入り、MILFなどと交戦。警察部隊44人を含む60人以上が死亡した。

 国会では「(多数の警察官を殺害した)MILFからの十分な説明がなければ和平に向けた法整備はできない」との声が上がっているようだ

 アキノ大統領は「基本法が可決されなければ和平は失敗する」と訴え、MILF側も和平推進を強調した。ただ、一部国会議員らはMILF批判の世論に敏感に反応。イスラム系住民の自治拡大で利権を奪われる議員らも「和平をつぶすチャンスととらえている」という。

 フィリピン政府は次期大統領選が行われる2016年5月に新自治体の議会選挙を同時実施する方針だが、そのためには今年5月までに基本法を可決する必要があるとされるので、どうなるか解らなくなってきている。

 フィリピンの悪いイメージを払拭するためにも、無駄な争いを止めて、和平へのプロセスを速やかに進めて欲しいものだ。












Viewing all articles
Browse latest Browse all 2208

Trending Articles