9月29日召集の臨時国会で自民、公明の与党は、議員立法による「国外犯罪被害者の遺族に対する弔慰金の支給に関する法律案」の成立を目指すという。これまで国の支援の対象外だった海外での犯罪被害者について、援助に転じる第一歩ではあるが、国内の犯罪被害者と比べて十分な支援には程遠い。見直しを求めたい。
殺人など故意の犯罪行為で死亡した被害者の遺族や障害が残った被害者には、国が経済的に支援するため、犯罪被害者等給付金支給法に基づき最高約4,000万円を支給する。ところが、同法は犯罪の発生場所を国内か日本の船舶・航空機内に限っている。海外での犯罪被害の認定は難しいというのが理由だが、それでは理不尽だとの意見が強まっていた。
しかし与党の法案は、海外の犯罪で亡くなった日本人被害者の遺族にだけ弔慰金として100万円を支給するにとどまる。国内の被害者との落差はあまりにも大きい。被害者の苦しみに国内も海外も変わりがないことを考えれば、国が同等に支援する仕組みに練り直すべきだ。
被害者や遺族を社会が連帯共助の精神で援助するのが犯罪被害給付制度だ。各都道府県公安委員会が裁定し、支給額は被害程度などにより障害約4,000万~18万円、重傷病最高120万円、遺族約3,000万~320万円。昨年度は516人に計12億3,000万円余が支給された。
昨年2月に米領グアムで起きた無差別殺傷事件などを契機に、海外の被害者にも給付制度の適用を求める声が高まった。だが、内閣府に置かれた有識者らの検討会は今年1月、別の枠組みによる支援を目指すべきだと結論づけ、与党案につながった。海外には犯罪事実を詳細に調査する足場がなく、調査の濃淡によって公平性に問題が出るため、在外公館が入手可能な情報で遺族に一律支給する単純な制度にするというのだ。実務を担うことになる警察庁と外務省の強い抵抗があったためだと言う。
これでは、何よりも国内の被害者との公平性を欠くことになる。調査が困難だから支援全体を縮小するというのではなく、幅広い支援を優先する考え方に立つべきだ。
一方、野党側は海外の被害者も遺族も国内と同様に支援するため、給付金支給法改正案を提出している。試算では支給額を含めた年間経費は約1億5,400万円で足りるという。この案を軸に与党は野党に歩み寄ってはどうかと思う。
日本人も海外に毎年1,700万人前後が海外に出かける時代で、滞在者も年々増えているのが現状。調査の濃淡で不公平が生じ、手間が掛かるからしないと言うのも可笑しなものだ。
日本人が海外で亡くなった場合の本国への遺体搬送は数百万円以上掛かると言うが、海外によく行く米国人が亡くなった遺体を米国に搬送する場合は、犯罪に関わらず一律8千米ドルと聞く。国々によって色んな違いがあると思うが、日本国としての対応を見直してみることも重要だと思う。