自身あるいはご主人の海外転勤により転居される方やフリーランスで海外に住みながら仕事をしている方など、いずれは日本に戻るものの長期にわたり海外に住む方の数は年々増えています。外務省の調べ(海外在留邦人数調査統計平成30年要約版)によると、海外在留邦人の長期滞在者数はこの30年で2.5倍にもなりました。
さて、日本に住んでいる間は日本の年金制度へ加入し、国民年金保険料あるいは厚生年金保険料を納める必要がありますが、海外に居住している期間はどうすれば良いかです。今回は、ファイナンシャルプランナーの坂本卓也(所属:ブロードマインド株式会社)が、海外に居住している期間の年金事情について解説いたします。
日本国内に住んでいる20歳以上60歳未満の方は、すべて国民年金の被保険者となり、厚生年金や共済年金加入者(※)、第3号被保険者(=厚生年金・共済年金の被扶養者)以外は国民年金保険料を納める必要があります。(※)平成27年10月より共済年金は厚生年金に統一されています
それでは、海外に住むことになった場合も日本で年金を納める必要はあるかと言えば、この場合は、日本国内に住んでいないため国民年金へ加入する義務がなくなります。つまり、日本で年金を納める必要はないということですね。
ただし、年金を支払っていない期間は、年金受給の際の受給資格期間はカラ期間となり、老齢年金の給付額の計算からも外れるため、全期間・満額支払っている方に比べると年金の給付金額が減額されてしまいます。
海外に住んでいる間は、たしかに日本で年金を支払う義務はありませんが、その代わりに居住している国の年金制度に加入する必要があります。日本の年金制度は日本国籍の有無ではなく、居住の有無によって支払い義務が発生します。これと同様というわけです。
海外で、1~2年と短期間のみ住んだ場合、その分の年金を受け取ることはできるかと言うと、日本で年金を受給するには10年以上の支払い期間が必要であるのと同様に、海外の年金制度においても一定の支払い期間が必要となります。
つまり、その国の受給期間を満たさなければ、せっかく支払った年金が払い損になってしまうというわけです。また、会社員の方が転勤で海外に渡航する場合は、会社が日本の年金制度に加入しているケースが大半ですので、渡航先の年金制度に新たに加入すると年金の二重加入となってしまいます。
国際間の人材の移動が流動的となっている昨今、上記のような事態を避けるために各国と社会保障協定を結んでいます。
厚生労働省によると、以下の通り記されています。
(1)適用調整
相手国への派遣の期間が5年を超えない見込みの場合には、当該期間中は相手国の法令の適用を免除し自国の法令のみを適用し、5年を超える見込みの場合には、相手国の法令のみを適用する。
(2)保険期間の通算
両国間の年金制度への加入期間を通算して、年金を受給するために最低必要とされる期間以上であれば、それぞれの国の制度への加入期間に応じた年金がそれぞれの国の制度から受けられるようにする。(出典:海外で働かれている皆様へ(社会保障協定)/厚生労働省)
つまり、5年以内の海外渡航であれば、渡航先の年金制度に加入せず日本の年金制度に加入し続けることができ、また、渡航先の年金制度の加入期間が受給要件を満たさなかった場合には、日本の年金制度の加入期間と通算して、それぞれの国の年金を受給期間に応じて受け取ることができるということになります。但し、社会保障協定を結んでいる国に限ります。
たとえば、20歳から65歳までのうち37年間は日本で、8年間はアメリカに渡航して仕事をしていた方の場合を考えてみたいと思います。
日本で37年間、アメリカで8年間、それぞれ年金を納めることになりますが、この場合、日本の年金受給要件は満たしますが、アメリカの年金受給要件は10年以上の支払いが必要なため満たしません。そうなると、日本の年金も満額ではないため支払い停止期間分は受給金額から減りますし、アメリカで支払った8年分の年金保険料はすべて無駄になってしまいます。
しかし、日本とアメリカは社会保障協定を結んでいるため、日米の年金保険料支払い期間を合算することができ、日本の年金を37年分、アメリカの年金を8年分それぞれ受け取ることができるというわけです。
さて、2018年8月時点の社会保障協定の発効状況は下記の通りです。
【協定が発効済の国】
ドイツ・イギリス・韓国・アメリカ・ベルギー・フランス・カナダ・オーストラリア・オランダ・チェコ(※)・スペイン・アイルランド・ブラジル・スイス・ハンガリー・インド・ルクセンブルク・フィリピン
【署名済未発効の国】
イタリア・スロバキア・中国 (出典:社会保障協定/日本年金機構)
年金の支払い、受け取りを無駄にしないための社会保障協定ですが、すべての国と協定が発効できているわけではありません。上記21ヵ国と社会保障協定を署名し、うち18ヵ国で発効済みとなります。しかし、その中でもイギリス、韓国、イタリア、中国については「保険期間の通算」はできません。つまり、社会保障協定を結んでいる先であっても、必ず支払った分を受け取れるとは限らないというわけです。
上記以外の国でも政府間で交渉がされていますが、まだまだ協定の締結国数は少ないため、海外に渡航する際は各国の年金状況や社会保障協定の締結状況を確認してみてください。(Sodan等より)
フィリピンは昨年の8月から社会保障協定が発効済みとなっていますので、日本人も年金が無駄にはならなくなりました。ただ、年金保険料が日本より安い分、フィリピンの年金は低いと考えておいてください。
フィリピンの年金は見直されてきており、納付額を含めて段々と上がって来ているようです。最近、ドゥテルテ大統領が、退役軍人への年金支給額を月額5,000ペソから2万ペソに引き上げる法案にも署名しています。