介護分野の外国人技能実習生が働き続けるのに必要な「日本語能力」を測るため、介護に特化した新たな試験が作られることになった。今の試験はハードルが高いとして、実習生を送り出す国側から反発が強い。このままでは不足する介護人材を確保できないと、介護事業の海外進出を進める官民の「国際・アジア健康構想協議会」が、年内にも内容を決めて実施すると発表した。
厚生労働省もこの新試験を認可する方針だ。協議会は、試験作成に向けて日本語教育や介護の専門家による検討会を立ち上げ、介護現場に必要な日本語能力の基準作りを進める。
技能実習制度の介護職は、初の対人サービスとして昨年１１月に加わった。厚労省は必要な日本語能力を測る物差しに、「日本語能力試験」（国際交流基金など共催）を採用。入国の条件を「Ｎ４（ややゆっくりの会話ならほぼ理解できる）」合格とし、１年以内に「Ｎ３（日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる）」に受かれば最長５年間働け、不合格なら帰国させられるとした。
昨年９月に決めたばかりだが、働き続けられる条件が１年以内の「Ｎ３」合格から、１年以内の新試験の合格に変わることになる。背景には、実習生を送り出す各国からの強い反発があった。日本語能力試験は一般的な日本語力が試され、Ｎ３は日本語教室に１年以上通って習得できるレベルとされている。フィリピンの送り出し機関関係者は「ハードルは高く、大半は不合格で帰国させられる。人材の『出し渋り』が起きている」と話す。
このため、人材確保に道筋をつけたい日本政府が事実上方針を転換した形だ。介護関連の日本語であれば仕事をしながらでも身につき、合格しやすいとの期待もある。協議会は、入国時の日本語能力を測る新試験作成も検討するという。
政府は深刻な介護人材不足の解決のため、外国人の活用を進めている。ただ、２００８年に始まった経済連携協定での入国者は累計３，５００人ほど。厚労省が推計する２０２５年の不足人数３８万人を埋めるにはほど遠い。このため、現場では受け入れ人数に上限がない技能実習生に期待が集まる。
一方、受け入れ態勢の整備は現場任せだ。東京都墨田区の特別養護老人ホーム（特養）は、昨年日本語能力がＮ４の留学生２人をアルバイトで採用した。担当者は「何が通じているのかさえ分からない状態」と途方に暮れ、１年間は身体介護には携わらせず、食事の配膳などをしてもらった。
日本語教室にも通わせた。教師の中野玲子さんは「利用者の名前を覚える」に始まり、「食堂への移動を呼び掛ける」「報告書を書く」と段階を踏んで指導。「介護に必要な日本語能力はＮ３やＮ４を測る試験とは別物」と話す。
青森県内のある特養では、年内にも技能実習生を受け入れる予定で、施設内に複数の監視カメラを設置した。万が一、事故が発生した場合に備え、実習生が日本語で状況報告ができない事態を見越した対応だ。
経済連携協定と技能実習制度の介護人材受け入れの違い
◇目的
＜経済連携協定＞二国間の経済活動の連携強化
＜技能実習制度＞途上国に技能を移転する国際貢献
◇対象国
＜経済連携協定＞インドネシア、フィリピン、ベトナム
＜技能実習制度＞協力覚書を結んだ国
◇応募要件
＜経済連携協定＞大卒程度で、母国で介護講習を受けたか看護課程を修了した人
＜技能実習制度＞１８歳以上で、母国で高齢者の世話などの経験がある人
◇在留期限
＜経済連携協定＞最長５年。介護福祉士資格を取れば働き続けられる
＜技能実習制度＞日本語能力試験のＮ３に合格すれば最長５年。介護福祉士資格を取れば働き続けられる
◇日本語力の条件
＜経済連携協定＞国の支援で入国前後に約１年研修し、試験で一定の能力があると判断される必要
＜技能実習制度＞入国時にＮ４、１年以内にＮ３合格
◇受け入れ人数
＜経済連携協定＞各国、年３００人まで
＜技能実習制度＞上限なし （朝日新聞等より）
経済連携協定から始まった介護人養成は、厚労省の外郭団体が取り仕切っているため、ハードルが高く送り出す国側からの反発も強かった。これでは、世界的に不足しだした介護人の確保は難しくなっていた。そこで、日本も介護の人材確保に待ったなしの状況が続くとして、技能実習制度を採用したりしだしている。少子高齢化で人口減となりだした日本、介護人材の確保のためにハードルが下がってきたようだ。