年金というとほとんど老後のものと思われがちで、よく話題になるのもほぼ老齢年金。それももう積立金運用が・・・とか損得が・・・とかそんな隅っこの話に重点置かれてしまう。なんか本質から離れた部分にこだわられがちです。
まあ、老齢の年金受給者が圧倒的に多いし、論点も凄まじく多いのでそっちの話になりやすくはあるんですが、年金は老齢になった人だけが受けるものではありません。
長~い人生において、特に20歳以上になると国民年金に強制加入させてるのは、いつ起こるかわからない重い病気やケガで働くことが困難になった時の障害による所得喪失のリスクにも対応するためなんです(遺族年金も自分が死亡した時の家族保障。遺族年金については今回は省略)。特に障害年金は、その障害が続く限りはずっと支給されるものなので、民間保険より遥かに強力なものなのです。
さて、公的年金は「保険」である事をまず認識しなければならない。老齢だってこれ、積み立ててるわけじゃなくて保険を掛けてるんですよ。(ひと昔前は積立だったけど)
高齢になったら働くのが困難になりますよね。となると所得を得にくくなります。それに、いつまで生きるのかなんて誰もわかりません。だからそういう長生きリスクに備えるのが老齢の年金なんです。
長生きは良い事ではありますが、リスクでもあるんですよ。だから生きてる限り年金を支給しましょうと。損得勘定論自体が不適切。それは力説するところじゃないですよね。
話を戻して、障害年金と聞くと、世間が想像する障害者の方とか障害者手帳を持ってる人じゃないと受けられないと思われがちですが、日常生活上支障をきたすような多くの傷病に対応しています。
初回請求する時の書類に障害手帳お持ち?とおたずねしてる部分はありますが、持ってないからって不利になる事はない。例えば、患った難病指定の潰瘍性大腸炎とかパッと聞いてそれって障害なの?と疑問符が付くような病気でも対象になる。
何の病気かという問題よりも、その傷病で日常生活上どのくらいの支障が出ているのかというのが重要視される(もちろん視覚とか聴覚とか臓器の数値異常でOKなのもある)。
だから、現代に多い精神疾患のうつ病とか統合失調症とか発達障害は治療が長期になりがちだし、およそ障害年金受給者の70%近くが精神疾患と知的障害で占める。精神疾患も障害っていう感じではないけど、普通に障害年金の対象になる。
さてその障害年金ですが、そういう傷病で働くのが困難になったらすぐ貰えるわけではありません。
4つの条件を満たす必要があります。
ア.その傷病で初めて病院に行ったのはいつか?(初診日という)
イ.初診日の前日までに一定の年金保険料を納めている又は免除にしてたか(保険料納付要件という)。
ウ.その初診日から1年6ヶ月経った、または1年6ヶ月経つ前に治ったか(治ったというのはもうこれ以上治療の効果が望めないというような意味を指します。手足切断したらいくら治療してもどうしようもないですよね)。→この1年6ヶ月経った日又はそれまでに治った日を障害認定日という。
エ.障害年金請求の時に出す診断書が障害年金受給する程度の等級にあるか。
アはですね、ここが最初の大きな壁ですね。転院する人は多いですが、現在通ってる病院の初診日ではなく「その傷病で初めて通院した病院が初診日」になるんですよ。初診日を証明してもらうために、初診日のある病院から受診状況等証明書というのをその病院のカルテに基づいて書いてもらいます。ちなみに、ずっと同じ病院行ってるならいちいち初診日を証明してもらう必要は無い。なぜ初診日を証明する必要があるのかというと、「初めて病院に行ったという保険事故が起こった時に加入していた年金制度から障害年金を支給するから」です。そして、「その保険事故である初診日前の年金保険料納付状況を見なければならないから」です。
まあ…多くの人が障害年金なんて知らないもんだから、随分と時が経ってから障害年金を知って請求という場合が多いようです。
その初診日のある病院に通わなくなっても、5年以内ならカルテ保存義務があるからカルテが残っていますが、5年を超えるとカルテが破棄されて初診日証明の難易度がかなり高くなってしまう。(5年経ってるからといって必ずしもカルテが破棄されてるとは限らない)
よって、その傷病が将来長引くようなものであれば、あらかじめ受診状況等証明書を取っておくとか、初診証明になりそうな資料はきちんと保存しておくことが重要。ちなみに初診日にはいろんな例外がありますがここでは割愛します。
イは、公的年金は保険だから「保険事故である初診日が訪れる前に、年金保険料をちゃんと納めたり支払うのが困難だったなら保険料を免除にしてリスクに備えてきたかなー?」というのをみるため。ちなみに、初診日までに全ての期間が保険料納付とかじゃなければならないわけではなくて、一定の期間を満たしてればいい。
初診日の前日において「初診日の属する月の前々月まで」の年金保険料を納めなければならない期間があるならその期間の3分の2以上は保険料納付か免除期間でなければならない。
それか、初診日の前日において初診日の属する月の前々月までの直近1年間に未納が無ければそれでも構わない。(65歳未満の人に限る)
例えば平成30年8月7日に初診日なら、その前々月の平成30年6月から平成29年7月の間に未納が無ければいい。普通は直近1年に未納がないかを見る。
こういう保険料の状況を見るから、保険料の未納は避けろってうるさく言われるわけです。初診日わかっても保険料未納が多くて請求不可とか泣くに泣けない事態になります。保険料納付要件満たせずに請求不可っていう事も割とあるから、未納だけは避けてもらいたい所であります。
ところでなんで「初診日の前日において」なのか。これは、初診日という保険事故が起きて慌てて過去の滞納していた年金保険料を納めたり免除にしたりして後出しジャンケンをさせないためです。たまーに、パッと見るとバッチリ保険料納めてるかのように見えても、証明された初診日より後に保険料が納められてたりして保険料納付要件を満たしてない人がいたりするようなんですよね。こういうのを逆選択といいます。
一瞬、あ、これなら大丈夫だねと思って保険料納付日を確認したら逆選択になってたことがちょいちょいある。保険料納付日や免除申請日より後に初診日が無いといけない。なお、初診日が20歳前にある人は保険料納付要件は不要(年金に強制加入前の保険事故だから)。
ウの初診日から1年6ヶ月経った日又は治った日を障害認定日といいます。ここから障害年金請求が可能になる。この障害認定日から3か月以内の現症を書かれた診断書を医師に書いてもらって請求する(障害認定日請求という)。障害年金が貰えるなら、障害認定日の属する月の翌月分からの支給になる。
もし、その障害認定日からもう何年も経ってから請求できる場合(その障害認定日から3か月以内の現症の診断書を書いてもらえたとか)は請求から障害認定日まで遡って障害年金が支給される。
なお、障害年金の遡りは最大5年分だから例えば10年前の診断書が取れても、過去5年分が限度という事です。この遡り請求(遡及請求という)ができると、人によっては1,000万くらいの障害年金が遡って支給されてる事もあった。なぜ1年6ヶ月も待たないといけないかというと、その傷病が一過性のものではない事を見るため。
もちろん1年6ヶ月以内に治ったかのように見えたのに、再発とかで同じような相当因果関係があるなら一過性とはみなさない。
じゃあもし、障害認定日の時の障害状態では障害年金貰うほど傷病が重くなければ、その後65歳到達日までに障害が重くなった場合は事後重症請求として、障害年金請求月の翌月分から支給になる。多くの人が事後重症請求ですが、必ずしも認定日請求してる必要は無い。
エは障害年金が支給されるかが決まる最重要書類の診断書ですが、年金機構独自の障害年金専用の診断書に医師に記入してもらわなければいけません。この診断書において、障害等級に該当していれば障害年金が支給される。障害年金貰えるかどうかはもう90%くらいはこの診断書で決まる。
障害年金は何の病気かというよりもその傷病で如何に日常生活に支障が出ているかという事が重要視されるため、日ごろから医師に日常生活上困っている事をしっかり伝えることが大切。
医師はあくまで病気を治す事が仕事であり、患者さんの日常生活の困難さまでは正確には把握できないのでしっかり伝えましょう。
患者さんによっては本当はそんなに病状良くないのに、通院時には身なりをしっかり整えて、治ってきました!とか無理に元気そうに伝えちゃう人もいるからです。
さて、初診日に加入していた年金制度により、支給される年金が変わります。自営業とか学生、無職の人などの国民年金加入中または20歳前の初診日の人なら障害基礎年金のみ。サラリーマンや公務員の時に初診日があるなら、障害厚生年金が支給される。
障害基礎年金のみの人は障害等級が1,2級に該当する程度じゃないと支給されない。2級は年額779,300円(月額64,941円)で、1級は2級の1,25倍の974,125円(月額81,177円)。なお、18歳年度末未満の子がいれば子の加算金224,300円。3人目からは74,800円が付く。
障害厚生年金は1~3級まである。障害厚生年金はその人の過去の給料や賞与により金額は異なりますが、1,2級であれば障害基礎年金が一緒に支給されるから給付が手厚い。また、65歳未満の生計維持している配偶者がいれば、配偶者加給年金224,300円も障害厚生年金に加算される。
3級には障害基礎年金や配偶者加給年金は付かないですが、金額が584,500円(月額48,708円)に満たない場合は584,500円が最低保障される。
厚生年金には他に障害手当金という一時金(最低でも1,169,000円)もありますが、3級にすら該当しなくて、治療の効果が期待できないという障害が治った状態の人のみで、障害手当金の人はほぼ見た事ないですね。たいへん少数だと思います。
というわけで、障害年金は請求にこぎつけるまでが大変で、特に初診日が分からずに請求を断念してる人が多いですが、方法は様々に至りますので安易に諦めないことが大切です。特に今は障害年金を専門としてる社会保険労務士さんも多くなりましたので、自分で請求は無理そうなら相談することをお勧めします。
専門家に頼むと料金はかかりますが長い目で見たら、あの時障害年金貰えて本当に助かったと思う人は多いはずです。あと、周りの人の力を借りる事ですね。
※追記:65歳以上になると自分の老齢の年金がもらえる年齢になるから、原則として障害年金は請求できなくなる。特に65歳以降の初診日の場合は厚生年金加入中の場合とかごくごく一部のみになります。(MAG2NEWS等より)
公的年金は、老齢になったときに年金を貰うためだけではありません。いつ起こるかわからない重い病気やケガで働くことが困難になった時の障害による所得喪失のリスクにも対応していますし、遺族年金は自分が死亡した時の家族保障があります。特に障害年金は、その障害が続く限りはずっと支給されるものなので、民間保険より遥かに強力なものと言えます。万が一のためにも条件を把握しておいた方が良いでしょうね。