フィリピン統計庁は、2017年の実質国内総生産(GDP)伸び率が前年比6.7%(速報値)だったと発表した。2016年の6.9%から減速した。経済成長を支えてきた民間消費の伸びは鈍化。一方、政府が育成を目指す製造業が全体を上回る伸びとなり、成長のけん引役に変化の兆しも出ている。
GDPの需要サイドの約7割を占める民間消費は5.8%で、2016年より1.2ポイント減速した。2016年に大統領選に関連した消費が増えた反動減もあるが、その影響が薄れた2017年10~12月期も6.1%と全体の伸びを下回った。背景にあるのは消費者の意識の変化だ。
フィリピン人は長年、給料をすぐに使いきる傾向がみられたが、最近は将来を見据えて住宅などを購入するため貯蓄する人が増えている。首都マニラで働くビンセント・アリドンさん(27)は「給料の半分は貯金しているよ」と話す。2018年の出費は2017年と同程度にして昇給した分は貯金を増やすという。
民間消費を下支えしてきた海外の出稼ぎ労働者からの送金の伸びも鈍化しつつある。2017年1~11月期の送金額は前年同期比4%増の約253億ドル(約2兆8,000億円)で、2016年通年の前年比5%増から減速した。支出に占める割合の高い食品などの価格も上昇し、消費意欲に影を落とす。
半面、伸びているのが製造業だ。10~12月期の製造業の伸び率は8.8%。5四半期連続で全体を上回り、GDPの供給サイドに占める割合は25%に拡大した。依然、サービスなどの第3次産業が5割強を占めるものの、第2次産業の存在感が徐々に高まっている。
トヨタ自動車はこのほどラグナ州にある工場に樹脂成型機を導入した。バンパーなどの生産を近く始める。2019年には大型プレス機も導入する計画。政府の自動車生産振興策を受け、部品生産の現地化を進める。フィリピンはタイやインドネシアと比べて車産業の裾野が狭く、市場は輸入車に席巻されていたが、モノづくりの基盤が根付きつつある。
企業の投資意欲を妨げている脆弱なインフラも改善に向けて動き始めた。ドゥテルテ政権は2022年までに8兆ペソ(約17兆円)超を投じ、鉄道や空港、道路、発電網などを整備する方針。日本や中国から支援を取り付け、歴代政権が財源不足で断念してきた大型インフラ事業が進む環境が整いつつある。
政府はインフラ整備にともなう支出が増えるなどとして、2018~20年に7~8%の成長を見込む。海外で働くフィリピン人は人口の1割に相当する1千万人とされる。豊富な労働力を生かし、モノづくりを育てる好循環を築けるかが高い経済成長を持続するカギになりそうだ。(日経新聞等より)
政府のインフラ整備推進により、昨年の資本財輸入が急増し、貿易赤字が拡大した。これにより、2018年も経常赤字の拡大が続くとの懸念がペソ安につながっている。そして、ペソ安見通しに加え、増税や原油高、食料価格の上昇などによるインフレ率の拡大を背景に中銀が年内に3年超ぶりとなる利上げに踏み切るとの見方も強まっている。製造業も伸びており、中進国になるための産みの苦しみもあるようだが、乗切って欲しいものだ。