年金というと老後のお金というイメージが強いですが、あくまでそれは年金の一つであり、また、大きな役割でもあります。
65歳以上の高齢者世帯の所得に占める中の67%は公的年金で占めており、また、所得が全て公的年金であるという高齢者世帯は55%にのぼります。(国民生活基礎調査調べ)
年金にはこういう老後の長生きするリスクに備えるだけでなく、自分が死んでしまった場合の家族への生活保障である遺族年金。そして、長い人生の中で病気や怪我で働く事が困難になり所得を得られなくなるリスクにも備えています。それが障害年金です。
「障害」と聞くと、手や足を失くされたり、半身不随とか寝たきり、知的障害の方を思い浮かべるかもしれませんが、年金でいう障害は特にそれらに限った事ではありません。
生活習慣病の癌や糖尿病、脳卒中、心疾患とかのよく聞く重い病だけでなく、鬱病のような精神疾患等ほとんどの病気等で障害年金を請求する事ができます。
病気で判断するのではなく、特にその傷病によりどの程度日常生活に支障が出ているのかが重視されます。もちろん視力や聴力等の検査数値だけで障害年金に該当するかどうかわかるのもありますが・・・。
障害年金が支給される程度なのかどうかは、日本年金機構の障害認定規準を見ると良いでしょう。ちょっと読みづらいですが、気になる病気や怪我の場所の状態がどの程度であると障害年金に該当するのか見てみましょう。
※障害認定基準(日本年金機構)
生産年齢人口である15~64歳までの間にずっと健康である保証は何もありません。ちなみに日本人の死因第1位である癌は高齢者の病気と思われてそうですが、毎年90万人近くが癌にかかる中、3分の1は20~64歳の間の人が癌になっているのです。そして、会社員の死亡の半数は癌で亡くなっているといわれています。
意外に働き盛りの人がこういう重大な病に罹ってたりするわけです。また、精神疾患で働くのが困難になる人も本当に多くなりましたよ。そこで、万が一そういう事態になった時に存在するのが障害年金なんです。
年金は保険でもありますが、障害という事態になった時に年金機構に請求すればすぐ支給されるかというとそうではないんです。原則として初めて病院にかかった日(初診日)から1年6ヶ月経たないと請求できない仕組みになっているからです。
手足を切断等、これ以上治りようがない(症状固定や、治った日ともいう)とか医師が判断する場合は特例として1年6ヶ月待つ必要はありません。この1年6ヶ月経過した日や治った日を「障害認定日」といいます。
次の場合は特例的に1年6ヶ月の障害認定日まで待つ必要は無い。
①人工透析開始後3ヶ月経過した日
②人工頭骨、人工関節を挿入置換した日
③心臓ペースメーカーまたは人工弁の装着をした場合は装着した日
④人工肛門を造設した場合は造設した日から6ヶ月を経過した日
⑤尿路変更術を施術した場合は施術した日から6ヶ月を経過した日
⑥喉頭全摘出の場合は全摘出した日
⑦在宅酸素療法を行っている場合は在宅酸素療法を開始した日
⑧遷延性意識障害(植物状態の事)になり、医学的観点から、機能回復がほとんど望めないと認められる場合は、遷延性意識障害になってから3ヶ月経過した日が障害認定日
となっているので、1年6ヶ月待つ必要はありません。
まぁちょっと気を付けたいのは①ですね。例えば糖尿病治療をしていて、既に1年6ヶ月経っているのに人工透析開始してから更に3ヶ月待たないというわけでは無いです。
それでは、その1年6ヶ月をどうするのかというと、サラリーマンは健康保険、公務員は共済組合から病気や怪我で働く事ができない間は傷病手当金というものが支給されます。傷病手当金はざっくり言えば直近1年の月額給与平均(標準報酬月額平均)の3分の2程度の額が支給されます。この傷病手当金が最低でも1年6ヶ月間は生活保障するからそれと障害年金が重複しないようにされているのです。
ただ、サラリーマンとか公務員に勤務してる人以外だと傷病手当金が無いから何らかの民間保険とかで備えている必要があります。傷病手当金が無いとすると、やはり1年6ヶ月はあまりにも長いですね。障害年金は強力な保険ではありますが、ここが障害年金の欠点だと思います。
癌とか、たまたま病院行った時点で既にかなり進行していて、急に辛い闘病生活や余命宣告という例もあるわけで、それで1年6ヶ月待てっていうのはどうにかならんのかと思いますね。病気の中にはそういう一刻を争う事態があるわけですから。
あと、障害年金の存在を知らなくて、初診日から凄く時間が経ってしまっている場合があり、それもなかなか障害年金請求を難しくします。ずっと同じ病院通っていたというならそんなに難しい事ではないんですが、転院して長く時が経ってたりすると大変になります。初診日というのは今通ってる病院の初診日ではなく、今の傷病で初めて病院に行った日が障害年金の初診日として扱われるからです。
例えば、体がずっとダルい、頭痛や不眠続きだから内科に通ったとします。いくら検査しても身体には異常なし。鬱病が疑われ、精神科に通うようになり治療が開始された。この場合、初診日はどこかというと、よっぽどじゃない限り内科になっちゃうんですね。なぜかというと、内科での症状と鬱病との関係性が認められてしまうからです。これを相当因果関係といいます。
精神科に何年も通い、障害年金の存在を知って請求しようとする時、まず最大の壁が初診日になります。通院やめて5年経つとカルテの保存義務は無いから、初診日から5年以上経ってたりするとカルテが無いという事態になってしまうわけです(必ずしも破棄されるわけではないですが)。あと、廃院になってたりとか。だからといって請求がもう出来ないというわけではないですが、請求を非常に複雑にします。
だから、初診日の証明になりそうなものはちゃんと保存しておくと思わぬ助けになるので、捨てないようにしておきましょう。
まあ、去年10月から第三者の証言とかも初診日の材料にしたりできるようになり、多少初診日の証明が緩和されはしましたが、証拠となるもの(診察券とか入院記録、身体障害手帳、お薬手帳等etc…)があると障害年金請求の時に非常に助かります。
どうして、初診日が大事かというと、その体の具合が悪くなったり怪我したりして初めて病院にいくという「保険事故」が起こるまでに、年金保険料を一定期間ちゃんと納めているかどうかを見るからです。民間保険だってそうですよね。病気になってから、慌てて保険に加入して保険料納めても遅いわけでそれと同じです。
そして、初診日に国民年金に加入(自営業とか無職、学生、専業主婦等)していたか、厚生年金に加入(サラリーマンとか)していたかで年金額に大きな差が生じるからでもあります。
どのくらい金額に差が出ると思いますか。例えば障害等級2級に該当するとします。また、65歳未満の配偶者が居て、18歳年度末未満の子が2人居るとします。
等級は国民年金は1、2級で、厚生年金は1~3級まであります。
国民年金加入中に初診日があると、2級であれば、
障害基礎年金780,100円+(子の加算金224,500円×2人)=1,229,100円のみです。(偶数月に支払われる年金額は204,850円)
次に、厚生年金加入中に初診日があり、今までの給与平均額が300,000円だったとします。厚生年金加入月数は100ヶ月間。
障害厚生年金(300,000円÷1000×5.481×100ヶ月)÷100×300ヶ月=493,290円
65歳未満の配偶者が居るから、障害厚生年金に配偶者加給年金224,500円プラス。それに、2級だから合わせて障害基礎年金780,100円+(子の加算金224,500円×2人)=1,229,100円
※厚生年金期間が300ヶ月に満たない人は300ヶ月で計算する。
従って、合計は、→障害厚生年金493,290円+配偶者加給年金224,500円+
障害基礎年金780,100円+子の加算金449,000円=1,946,890円となります。(偶数月に支払われる年金額324,481円)
初診日が国民年金加入中にあるか厚生年金加入中にあるかで結構金額に差が出るんです。
さて、障害年金請求では初診日の前々月までに年金保険料納めてないといけない期間がある場合は、その全期間の3分の2以上を納めてるとか保険料免除期間でないといけません。それか、初診日の前々月までの直近1年に未納が無いか。今の12月が初診日であるなら、平成27年11月から平成28年10月の間に未納が無ければよいです。普通は手っ取り早くこの直近1年に未納が無いかを見ます。
3分の2以上とか未納が無いっていうのは、年金保険料免除も未納とはならないので、年金保険料を免除しておくというのはとても大事な事なんです。
今の保険料免除は、直近2年1ヶ月まで遡って免除期間にしてもらえるから、過去に未納にしてしまっている人は、所得により、必ずしも免除になるわけではないですが、免除申請を必ずしておきましょう。安易に未納にしておくのは危険です。
年金未納問題は老後に年金がもらえるかどうかという問題よりも、障害年金が請求できるかどうかという問題のほうが重大なんです。
ただし、20歳前に初診日がある人はこの年金保険料の条件は不要。それは20歳になるまでは年金加入義務が無いからです。これに該当する人は20歳以降に障害基礎年金を請求する事になります。また、先天性の知的障害は出生日が初診日になります。
一般的に障害年金は知られてないし、その上初診日が大事で、1年6ヶ月以降障害年金が請求できるようになるとかは、ますます知られてないと思うので、少しでも障害年金が周知される事が重要ですね。
民間保険と違って、傷病で日常生活が困難な間はずっと年金が支給されます(受給開始後は、その後も年金を支給するかどうかを判断する為、原則として1~5年間隔で診断書提出が求められます。
傷病がもうこれ以上治りようがないような場合は定期的な診断書提出が不要で永久に支給される人もいる)。傷病が軽快して障害年金が支給されなくなっても、また悪化するような事があれば請求してまた受給開始してもらえる。この時の初診日証明は要らないです。最初の請求の時に証明してるからです。
特に若い時期に重い傷病を患った場合は、その後の収入に大きな影響を受ける事になります。治療も大変ですが、そこにお金の心配が緩和されるかどうかもとても重要な事です。だから、自分の周りに何か病気で困っている人がいたら声をかけてほしいと思いますね。その一声がその人の人生の大きな助けになるかもしれません。
ちなみに、65歳以降になると余程の例外を除き、障害年金は新規で請求できなくなります。それは、老齢の年金が支給され始める年齢になるからですね。(MAG2NEWS等より)
日本の公的年金は、老後の年金だけでなく、障害に対する保険という役割があります。その面を考えれば、良い年金制度ですが、欧米の年金と比べると特にお粗末なのは国民年金の制度なので、もう少し対策を考えて欲しいですね。