日本の停滞した経済や長引くデフレ、硬直的な労働環境を後にして、定年後の生活を南国フィリピンで迎えると決めた日本人女性(62)の理由ははっきりしている。物価の安さと仕事があることだ。
「日本以外のどこかで暮らすことを楽しみにしていた。日本では仕事がないが、私はまだ働きたい」と、元獣医で、現在はフィリピン首都マニラで小さなティーショップを営むこの未亡人は話す。
フィリピンは、太陽や安い物価を求め、かつてないほどの低金利から逃れたい北アジア諸国の退職者を呼び込んでいる。財産に対する規定が緩やかで、35歳から永住権が取れるのが魅力となっている。
他の東南アジア諸国もわずかながら同様の制度を提供しているものの、タイやマレーシアのような国々は、より多くの年金額や預金残高、そして少なくとも50歳以上であることを移住者に求めている。
フィリピン当局によれば、数は小さいが、中国や韓国、台湾や日本からの移住者が最も多く、退職後の蓄えをむしばみ、増やす機会がほとんどない自国経済を逃れてやってくるという。
65歳以上の人口3,460万人と巨額な公的債務を抱える日本の場合、すでに多くの人が安い医療とより良い生活の質を求めて、定年後に海外で暮らすことを選択している。
定年後に移住者としてフィリピンで登録されている外国人数は現在4万2,511人で、人口約1億人の同国としては少ない。ノムラ(シンガポール)のエコノミスト、Euben Paracuelles氏は、フィリピン経済を大きく押し上げるには、移住ビジネスが、外国からの投資や観光を促進するためのより大きな改革の一部になる必要があると指摘する。
職員数を増やしているフィリピン退職庁(PRA)は、定年後の外国人移住者の数を2020年までに10万人にまで増やしたい考えだ。
「現在われわれがターゲットとしているのは、歩くことができて楽しいことが好きな退職者だ」と、PRAのゼネラルマネジャー、バレンティノ・カバンサグ氏は語る。
PRAのデータによると、過去4年間で、外国人退職者の3分の1は、いまだ現役の40代で占められている。
こうした定年退職した海外の移住者から最も恩恵が得られるとみられるセクターは医療だろう。通常、それが彼らの関心事であるからだ。
メトロ・パシフィック・ホスピタル・ホールディングスのアウグスト・パリソク最高経営責任者(CEO)は、北アジアからの富裕な退職者向けにすでに施設を改修しており、職員に外国語研修を行うことも検討していると話す。
「すべての病院や医療サービス提供者にとって、市場の拡大を意味することになるだろう」
手ごろなプライベート医療への需要拡大はまた、看護師の余剰を減らすことが期待できると、個人と契約を結ぶ看護師の協会で副協会長を務めるクリスチャン・レイモンド・レイコ氏は指摘する。
同氏によると、看護師の報酬は12時間シフトで500~1,000フィリピンペソ(約1,200~2,400円)。一方、日本では時給20ドル(約2,300円)だと、セント・ルークス・メディカル・センターの大場康弘氏は語った。
アヤラ・ランドやメガワールド、ロビンソンズ・ランドやセンチュリー・プロパティーズ・ グループなどの不動産会社も海外マネーに目を付けている。
東京にショールームを開設したアヤラ・ランドは、白浜のビーチで有名なセブ島に建設中の住宅の一部に、浴槽を備えた日本式のバスルームを導入するとしている。
また、同じくセブ島でロビンソンズ・ランドが建設した、オーストラリアのゴールドコーストを意識した高級住宅コミュニティーでは、退職者が外国人購入者の約5分の1を占めるという。
世界の景気動向によるが、円安ペソ高が是正されつつある。今年中には1ドル110円に近づくと思っていたが、105円の線が出て来ている。それならば、急激な変化が無い限りは、1ドル=100円=50ペソに近づいていきそうだ。
フィリピンは、アセアン諸国の中でも、永住権の取得ができやすい魅力がある。治安はそれほど悪くないので、後はインフラ整備だろう。