三菱東京UFJ銀行は、フィリピンの銀行大手セキュリティバンクに20%出資して持ち分法適用会社にすると発表した。投資額は約910億円。マネーが流出し新興国に逆風が吹くが、フィリピン経済は底堅く成長率は中国を超す勢いだ。邦銀の海外投融資は中国などに偏った急拡大期が転機を迎えており、成長力で投資先を選別する時代に入っている。
三菱東京UFJ銀は今年前半に出資手続きを完了させる。セキュリティバンクは今回の第三者割当増資で得た資金を活用し、2020年までに拠点数を2倍の500~600に、純利益を3倍の4.8億ドルに増やす計画だ。
米利上げや中国経済の減速で新興国からの資金流出が加速している。にもかかわらず、三菱東京UFJ銀が大型投資を決めた理由は3つある。
国際通貨基金(IMF)の予想によると、フィリピンの経済成長率は近年6~7%で安定し2017年には減速傾向が続く中国を上回る。アキノ大統領は昨年10月に環太平洋経済連携協定(TPP)への参加に意欲を表明した。長期的に見ても1億人を超す人口の増加傾向が続く有望市場だ。
2000年代に本格化した大手銀行の海外事業では、中国経済拡大に対応する戦略が主軸になってきた。中国経済の減速を受け、邦銀は「チャイナ・プラス・ワン」の新たな戦略を模索。みずほ銀行はベトナム大手のベトコンバンクに出資し、三井住友銀行も2014年3月、インドネシアの年金貯蓄銀行(BTPN)に追加出資した。
みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長(全国銀行協会会長)は、記者会見で「従来と同じように貸出残高を伸ばしていくのは当面難しくなってくる」と話し、社債発行やM&A(合併・買収)の仲介に成長余地があると指摘した。
セキュリティバンクへの出資も支店網を生かした個人向けの預金や送金など多様なビジネスを取り込む狙いがあるようだ。
邦銀も手詰まり感のある日本を離れ中国に偏重していたが、その中国も経済の減速を受け、成長力で新興国投資をする姿勢が出て来たと言うことだろう。
三菱東京UFJ銀行(BTMU)が出資したフィリピンの有力拡大商業銀行(ユニバーサルバンク)であるセキュリティーバンク(SECB)は、2015年9月末の総資産は4,820億ペソで民間銀行第6位の規模である。2015年9カ月間(1月~9月)の純利益は前年同期比6%減の61億ペソにとどまったが、前年同期に高水準の売買益が計上されていたことによる。
すなわち、売買益減少で小幅減益となった。しかし、本業の融資活動による純金利収入は同7%増の90億ペソと堅調であり、株主資本利益率(ROE)は16%(年率換算)と依然高水準である。
それに、財務諸比率は良好である。9月末の不良債権(NPL)比率は0.31%と業界最低水準。NPL貸倒れ引当率は179%に達している。バーゼルⅢ基準の自己資本比率(CAR)は15.9%で、中央銀行の最低基準10%を大幅に上回っている。
また、普通株式中核自己資本比率(CET1)も12.7%で、中央銀行の最低基準8.5%を大幅に上回っている。
このように、収益力の高さ、財務内容の良好さでは業界トップクラスにあるが、総資産や店舗数など規模においては、2番手グループに位置している。最近は、財務内容の良好さをなるべく維持しながら、店舗数やATM台数など規模の面でも高い成長を目指している。尚、9月末の総店舗数は260店、ATM設置台数は543台となっている。健全で共に成長できる銀行を、邦銀はよく検討しているようだ。