「相続増税」スタートの年となった2015年も折り返し地点を過ぎました。相続税の非課税枠(基礎控除)が大幅に減り、多くの家庭に影響するということで注目を集めましたが、実はその裏であまり騒がれることもなく、静かに進行を続けている資産への課税強化策があります。
7月1日からは、いわゆる「出国税」と呼ばれる「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」の制度がスタートしました。ターゲットはズバリ「1億円以上の有価証券等」を所有する富裕層です。私たち一般庶民には関係無いことだが、こうした富裕層を対象とする新たな負担増は、始動間近のマイナンバー制度とも連動しながら、2015年に入って一気にトーンを強めているといえるようです。
端的で分かりやすいのは、最高税率の引き上げです。所得税・相続税、ともに2015年からいちばん高額な課税となる層への税率がアップしました。所得税は課税所得4,000万円超の部分について税率が40%から45%に、相続税は資産6億円超の税率が50%から55%にそれぞれ引き上げられました。
「たかだか5%」の上昇ではありますが、その5%が乗ってくる元の所得や資産が非常に大きいという前提があります。実質的に増える負担はかなりのものでしょう。
もうひとつ、重点化されている課税テーマとして「国外」があります。世界にはさまざまな国や地域があり、そこを治める行政機関ごとに多種多様な税制があります。日本より所得税や相続税の負担が軽い、あるいはゼロに近いという国や地域は少なくありません。こうした税制や税率のギャップをうまく利用して、できるだけ税金の安い国で暮らしたい、負担のゆるやかな地域で資産運用を行いたいという動きが出てくるのは不思議ではないと思います。
もちろん「富裕層とその保有資産が、税率の低い国外へ移っていく」というのは、去年や今年に始まった話ではなく、昔から存在していた流れのひとつではありました。国も対応すべく、以前から国外の居住者や国外財産に対して課税を強化するルールの整備を進めています。
しかし、課税には大きな問題がありました。金融機関や行政の窓口などから豊富なデータがとれる国内とは異なり、いったん国外に出てしまったヒトやカネの動きは、そう簡単には捕捉できません。母体となる資産などの情報自体がよくわからないとなれば、いざ税金を取るといっても、なかなか実効力を持たせることは難しくなります。
こうした問題に対処するために、2014年からは「国外財産調書制度」が始まっています。非永住者を除く国内の居住者を対象に、5,000万円以上の国外資産を保有する場合、毎年、期限内にちゃんとリスト化して、なにがいくらあるかを報告しなさいという制度です。2015年からは、調書を出さなかったりウソの記載をしたりした場合の罰則が強化され、ケースによっては懲役刑が科されるという取り扱いまで始まりました。
さらに規制を強めたのが、冒頭に紹介した2015年7月スタートの「出国税」です。この制度は、資産の「含み益」が国外に流出する事態を防ぐための仕組みとなります。
例えば、かつて安い値段で手に入れたA社の株式があり、その後のA社の成長により株価が大きく値上がりしている状態になっていたとしましょう。将来的に売却するまでは実現しないながら、このA社株については「値上がり分の利益」を含んだ状態で保有していることになります。
それでは、この含み益のあるA社株を持ったまま国外に出たらどうなるか。最終的に売却したとき、安く手に入れたものを高く売った分の譲渡益に対して税金がかかります。国内で売却したなら、当然、日本で課税されますが、国外に出た後に売却した場合は、その国での課税となり、日本よりも低い税負担で売り抜けられるケースが存在していたのです。
このような事態を日本での「課税漏れ」ととらえ、これを防止するというのが「出国税」の目的です。つまり、有価証券などを1億円以上持っている人に対して、実際には売却していなくても「国外に出た時点でいったん売却したとみなし、その時点で課税してしまおう」という制度なのです。
売却益を得たわけではないのに、仮定の話で税金がかかってくる可能性がある厳しい制度であり、いよいよ本格的に運用が始まりました。
「有価証券が1億円以上」、「国外資産5000万円以上」などというと、ちょっと遠い世界の話だという感覚があるかもしれません。しかし、富裕層への課税強化が実行された背景には、富裕層が課税逃れの目的で国外へ資産を移す、いわゆる「資産フライト」を検討・実行しているという事実があるはずです。
国外に居住地を移したり、国外資産を利用したりするのは相続税対策として実際にある話です。しかし、対象となる層は必ずしも多数派ではありません。そのため増税に反対する世論は形成されにくく、課税強化・捕捉強化となりやすい対象であるのは否めないところでしょう。
現行ではセーフの取り扱いであっても、将来的には何かトラブルが起こりうるという前提で取り組み、常に情報をアップデートしておく必要がある分野だといえるでしょう。(日経新聞等より)
この法律は、民主党政権時に話題にならずに成立したようです。確かに、武富士の様に、税金逃れで香港に移住した日本人等に対して課税問題が発生していました。
国外財産で注意が必要なのは、発行者が、外国の企業や政府機関などが日本国内で債券を発行するケース。外国の企業・政府が日本国内で発行する債券、いわゆるサムライ債は、当然日本国内に存在・流通しているが、国外財産になってしまう。ただ、その反対に日本企業が外国で発行する株式や債券は、発行が海外であっても国内財産となるようだ。
フィリピンの場合、不動産はコンドミニュアムくらいしか持てないので、たくさん持っていなければ金額に届かないし、外国の有価証券をそんなに多く持っている人は少ないと思われ、フィリピンで居住している人は、この件に該当するのは少ないと思いますが、持っている人は確認した方が良いでしょうね。