東南アジアで格安航空会社(LCC)の成長に陰りがみえ始めた。低賃金の職員を確保できず、フィリピンのセブ・パシフィックは大規模な欠航を余儀なくされた。シンガポールのタイガーエアは合弁事業の海外路線から相次ぎ撤退した。旅客数の増加は続くとみられるが、競争の過熱により、低コストで新規路線を開設して収益を伸ばすLCCの成長モデルは壁に直面しているようだ。
2014年、クリスマス休暇のまっただ中。マニラのニノイ・アキノ国際空港の案内板には「欠航」の赤い文字が並び、ロビーは帰省の手段を奪われた客であふれかえった。フィリピンLCC最大手のセブ・パシ航空は、12月24~26日の3日間に20便が欠航し、遅延は300便近くに達した。
前代未聞のトラブルは「(地上職など)職員を確保できなかった」ことが原因だ。同社は「0ペソチケット」など低運賃を売り物に急成長したが、格安を支えた低賃金戦略では、経験が豊富でスキルの高い従業員を確保しにくくなってきた。直近の2014年7~9月期決算はコスト増もあり10億9,800万ペソ(29億2,400万円)の赤字に転落した。
東南アジアのLCCは2000年代初頭に台頭した。国営航空会社から顧客を奪うことで急成長を遂げたが、足元では人手不足で低コストの事業モデルが岐路に立っている。「安価で豊富な労働力」の前提が域内の経済成長で崩れているからだ。
国際航空運送協会(IATA)によると、2015年のアジア太平洋の旅客数は前年比7.7%増と伸びが続く見込み。米ボーイングは「同地域は今後20年で新たに21万6千人のパイロットが必要になる」と試算する。同時期に世界の41%を占める規模で、パイロット争奪戦が人件費の上昇に拍車をかける可能性がある。
「ジャカルタ便は間もなく出発します」――。シンガポールのチャンギ空港ではこんなアナウンスが頻繁に聞こえる。航空8社がしのぎを削り、ジャカルタ便の離陸間隔はわずか24分。シンガポール―ジャカルタ便は東南アジアで最も利用が多い路線で、競争は過熱する一方。LCCを中心に参入が絶えない。
だが収益は厳しい。同路線を運航するカンタス航空(オーストラリア)の子会社ジェットスターは2014年6月期の通期決算で1億1,600万豪ドル(約106億円)の赤字を計上した。地元企業のタイガーエアは2015年3月期まで4期連続の赤字が予想されている。
LCCの競合相手はもはや国営航空会社ではない。アジア太平洋航空センター(CAPA)によると、域内座席数に占めるLCCのシェアは2004年の10%から60%に伸長した。LCC間の競争が各社の経営をむしばむ。
料金引き下げ競争のなか、拡大戦略を見直す動きが出始めた。CAPAの調べでは、2014年に域内LCCの保有機材数の伸び率は13%と2013年の20%から減速した。タイガーエアは2014年にインドネシアとフィリピンの現地合弁事業から撤退した。
マレーシアのエアアジアも採算性の低い地方路線の運航を取りやめ、傘下の国際線会社はクアラルンプールと中部国際空港を結ぶ路線を2月中旬に休止する。トニー・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)は「運賃外の収入を引き上げる」戦略を新たに示すが、2014年7~9月期は前年同期比85%減益だった。
昨年末のエアアジア機に次ぎ、4日には台湾・復興航空機の墜落事故もあった。原因は調査中だが、利用者は安全性に敏感になっている。LCCの拡大が安全確保へのしわ寄せになるのではと懸念する声も根強い。
昨年後半からの原油相場の急落はLCCにとって「干天の慈雨」となり得る。だが、競争も激しさを増す見通しで、各社は勝ち残りに向け戦略修正を迫られている。(日経新聞等より)
セブパシ航空は、昨年のクリスマス前後(12月24日~26日)の多くの欠航や遅延を生じさせたことで、5千万ペソの罰金を言い渡されている。今後も需要が拡大する業界であり、人財の確保は急務のようだ。
シンガポールのタイガーエアは、フィリピンの合弁事業から撤退し、タイガーエア・フィリピンはセブパシ航空の傘下に組入れられた。
低価格で安全な航空会社として生き残るには、新たなビジネス・モデルの構築が必要なようだ。「頑張れ!LCC」と言いたい。