サラリーマンが入る厚生年金基金のうち74基金が今年度から来年度にかけて、深刻な積立金不足の基金に適用される「特例解散」をする方向で調整していることが、厚生労働省の内部資料で判った。
解散を申請すると、公的年金である厚生年金は予定通り支給されるものの、これに上乗せされる企業年金は支給されなくなる。影響を受ける人は、年金の受給者と現役社員の加入者を合わせて約86万人にのぼる。
74基金には年金受給者が約45万人、現役社員の加入者が約41万人いる。厚労省の試算では厚生年金基金の企業年金は標準で月に約7千~1万6千円で、その分がカットされる。さらに多い受給者もいて、神奈川県のある基金幹部は「受給期間が10~20年になるので、もらえなくなる企業年金は最大で計500万円の人もいる」という。
朝日新聞は、厚生年金基金について厚労省がまとめた資料を入手した。資料によると、全国の527基金のうち、3月18日までに195基金が解散する方針を厚労省に伝えた。
このうち74基金は、厚生年金の一部(代行部分)を出すための積立金が不足し、企業年金の積立金が無くなっていた。このため、今年度から5年の期限で認められた特例解散を使う方向だ。
厚生年金の不足分は加入企業が穴埋めすることになっており、特例解散は最大30年に分割できるなど負担を軽くしている。厚労省が解散を認可すると、受給者や加入者は国が運営する厚生年金保険から厚生年金を支給される。
しかし、企業年金の積立金は穴埋めされず、解散の申請とともに基金からの企業年金の支給が打ち切られる。その後、新たな企業年金をつくれるが、74基金の加入企業はほとんどが中小企業のため、余力があるところは少ないとみられる。
74基金以外では2基金が積立金が不足しているが、特例解散するかは決めていない。そのほかは厚生年金の積立金は不足していない。ただ、今後の運用が見通せないため、厚生年金の代行部分を国に返上して普通の解散手続きをとり、企業年金に絞った運営などを検討するとみられる。
厚生年金基金はバブル崩壊後に株価低迷などで積立金の運用が悪化した。加えて、2012年に発覚したAIJ投資顧問による詐欺事件で多くの基金が預けていた計約1600億円のほとんどが消失して運営が厳しくなり、厚労省はいまの特例解散の仕組みを取り入れた。
厚生年金基金は、サラリーマンが入る年金の一つ。国から厚生年金の積立金の一部(代行部分)を預かり、企業が社員のために上乗せする企業年金とともに運用している。4月1日時点で527基金に約400万人が入る。多くは中小企業が集まる基金である。
1990年代には約1,900基金に1,200万人以上が入っていた。高齢化で年金受給者が増える一方、現役社員の加入者が減り、株価低迷で運用も悪化したために、代行部分を国に返上して解散する基金が相次いだ。2012年にはAIJ投資顧問による詐欺事件が発覚し、多くの基金が預けていた計約1,600億円をほぼ失い、厚労省はいまの特例解散の仕組みを取り入れた。
■特例解散を決めた主な厚生年金基金
・北海道トラック
・東京都家具
・東日本ニット(東京都)
・神奈川県建設業
・愛知県石油
・愛鉄連(愛知県)
・ナオリ(同)
・京都府建設業
・京都織物卸商
・京都機械金属
・京滋石油(京都府)
・大阪自動車整備
・大阪府貨物運送
・西日本冷凍空調(大阪府)
・全九州電気工事業(福岡県)
・福岡県乗用自動車 (加入企業の公表資料などから) (朝日新聞より)
これの引き金は、2012年2月に発覚したAIJ投資顧問の巨額詐欺事件。AIJは年金の積立金などを集め、いろいろな金融市場に投資して高い利益を目指す「デリバティブ(金融派生商品)」で運用すると説明していた。ところが、実際は運用の失敗をごまかしながらお金を集め、74の厚生年金基金から預かった約1600億円の多くを返せなくなってしまった。最近、東京地裁でAIJの巨額詐欺事件の判決が出て、社長の懲役15年等を言い渡されたが、お金は戻って来ない。
厚生年金や国民年金などを運営していた厚労省・旧社会保険庁(10年から日本年金機構に業務を移管)が、厚生年金基金を天下り先にしていた歴史がある。積立金の運用や管理の十分な知識がないまま基金を運営してきた付けも、受給者が払わなくてはならない。受給者を馬鹿にした話である。