航空機大手2社の小型機市場での攻防が激しくなっている。欧州エアバスは2019年7~9月期にも米国で、カナダ企業から事業買収した「A220」の生産を始める。米ボーイングはエアバスが現地生産で先行した中国で新拠点を稼働させた。座席数が200席程度までの小型機は旅客機市場の7割を占め、花形だった超大型機に代わり主戦場になっている。
「誰も欲しがらない商品の生産はやめなくてはいけない」と、エアバスは超大型旅客機「A380」の生産停止を発表し、トム・エンダース最高経営責任者(CEO)は「心が痛む」などとした。
超大型機の苦戦は明らかだ。ボーイングも同規模の747型機の受注残のすべてが貨物機で旅客向けはない。代わって主戦場となっているのが座席数が100~200席程度の小型機で格安航空会社(LCC)向けに市場は拡大している。
エアバスは今年1月、2020年の1号機納入を目指して米アラバマ州で小型機のA220を生産する新工場の建設を始めた。式典で米法人のジェフ・ニッテルCEOは「400人の新規雇用が生まれる」とアピール。主力で同じく小型機の「A320」の生産拠点に併設させ、米市場向けに生産する。
A220の座席数は100~150席程度。ブラジルのエンブラエルが手掛ける100席程度以下の「リージョナル機」と、140~200席程度を備えるエアバスA320やボーイングの主力小型機「737」といった機種の隙間を埋める存在だ。A220はカナダのボンバルディアが開発しエアバスが事業ごと買収した。ボーイングが「カナダ政府などから過大な補助金を得て不公正だ」と主張し、通商問題になった経緯がある。
エアバスが米アラバマ州で生産を始める「A220」
米国内で生産すれば摩擦を回避し、米国の航空会社から受注を得やすくなる。エアバスは2019年に入ってから、米LCCのジェットブルーや大手のデルタ航空などから130機を超える受注を得たと発表した。2018年末時点の受注残(約7,500機)のうち、85%強にあたる約6,500機はA320シリーズとA220の小型機だ。ボーイングの737の約4,800機を引き離している。
中国でもつばぜり合いが激しくなっている。ボーイングは上海近郊の舟山市に中国商用飛機(COMAC)と合弁で737の「仕上げ・引き渡しセンター」を新設し、2018年12月に1号機を納入した。現地化で先行するエアバスは天津の拠点からA320をこれまでに約400機納入している。
両社はそれぞれ2037年までの20年間に、中国で7,400~7,600機の航空機需要がうまれ、全世界の需要の2割程度を占めると予測しており、取りこぼせないとみる。
全世界での2018年の納入実績は両社とも過去最高で、ボーイングが806機(前年比6%増)と、エアバスの800機(11%増)を上回り、6年連続の首位を守った。2019年も両社は納入増を計画しており、ボーイングが895~905機、エアバスが880~890機と僅差の争いが続く。
ボーイングは引き渡しの7割以上が737シリーズとなる見込み。米中摩擦や中国経済の減速が懸念されるが、デニス・ミューレンバーグCEOは1月の決算会見で「中国の旅客市場は国内総生産(GDP)の伸びを上回り、航空機需要は引き続き力強い」と述べた。
ボーイングは年間90機前後の納入実績を持つエンブラエルの商用機事業を2019年中に実質傘下に置く見通しになったことが追い風だ。ブラジル政府の承認が焦点だったが、1月に発足した新政権が認める方針を示した。
日本では三菱重工業が国産初のジェット旅客機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」を開発中だ。だが、協力してきたボーイングが、エンブラエル機を売り込めば、立場は微妙になる。航空機市場は拡大が見込まれるが、寡占する2社が争い、中国国産機も台頭する中で、新規参入企業が割っている隙はますます狭くなってくる。
座席数が500席級の超大型機の先駆け、初代の米ボーイング747型機の初飛行は50年前の1969年2月。超大型機は航空機メーカーや航空会社にとって自社の実力をアピールする象徴だったが、退潮は鮮明だ。
超大型機が衰退した背景の一つはLCCの台頭だ。大都市間を結ぶ事業モデルを得意とした大手航空会社は、超大型機を重用。代表例は日本航空で空港の発着枠が限られていたこともあり、国内線にも多くの747を投入。世界最大の747運航会社と呼ばれ、ピーク時には74機を運航した。
一方、LCCは需要が少ない都市間もA320や737といった小型機で結んだ。
技術や規制の面でも超大型機に逆風が吹いた。747やA380はエンジンを4基備える。大型の機体を飛ばすためだけではなく、太平洋上など空港から遠い所を飛ぶためには1つのエンジンが故障しても安全性を確保するために必要とされた。だが信頼性の向上や規制緩和で、1990年代には燃費が良いエンジン2基の機体でも運航の制限が少なくなった。
小型旅客機の攻防は、納入実績の多いボーイング社と見られていたが、最近連続して737の航空機事故が発生して、各国が事故機と同型のボーイング737MAX8を含む737MAX系航空機の前面運航禁止の動きが増えて来ている。ボーイングは事故調査を早急に進めなければ、737の不買運動が起きそうだ。