長寿化が進み「人生100年時代」が現実味を帯びている。安心して老後を過ごすには、終身で受給できる公的年金を最大限に活用することが重要だ。年金を増額できる受給開始年齢の繰り下げや厚生年金への長期加入などがカギとなる。
平均寿命(男性81歳、女性87歳、2016年時点)で考えると資金が尽きるリスクが高い。平均寿命は0歳児があと何年生きるかを表す数値。死亡率の高い幼児期を過ぎた大人は平均ではもっと長く生きる。実際、男女とも平均寿命より3歳上(男84、女90)まで、2人に1人が生きている。
長寿化がさらに進むことを考え合わせると、老後資金は「4人に1人が生き残る年齢」くらいを目安にして備えたい。男性は93歳、女性は98歳(2050年の予測、図A参照)だ。100歳をにらんだ資金計画が求められる。
公的年金には、もらい始める年齢を原則の65歳から早める「繰り上げ」と遅らせる「繰り下げ」がある。早めれば年金額は減り、遅くすれば年金額は増える。
長寿対策で有効なのは繰り下げだ。1カ月遅らせるごとに年金額は0.7%ずつ増え、最も遅い70歳を選べば42%多くなる。65歳からしばらく無年金でしのぐ必要はあるが、長生きすれば有利だ。
試算すると、繰り下げ年齢によらず、受給開始から12年弱たてば、年金総額が原則と等しくなる。70歳まで繰り下げて元をとれるのは81歳の時。男性の70%弱、女性の約85%が生きる年齢(2050年予測)なので確率的に繰り下げは有利だ。
図Bは、会社員と専業主婦の夫婦がともに一定年齢まで生きたとして、2人が受け取る年金総額を試算したもの。年金は月額22万1,277円(モデル世帯、2017年度)を前提とした。
70歳まで繰り下げたケースをみると、100歳時点での受取総額は、原則に比べて約2,100万円、60歳からの繰り上げ受給に比べて約4,000万円も多い。
しかし受給者のうち、繰り下げを選んでいるのはわずか2%弱(2014年度)。逆に繰り上げは1割強と多いのが現状。「夫婦一緒に繰り下げる余裕がなければ、長寿になりやすい妻だけでも繰り下げたい」(社会保険労務士の小野猛氏)
最近は保険会社で、長生きするほど有利になる終身型「トンチン年金」が人気だ。代表的な商品でみると、男性が50歳で加入して20年間に払う保険料は計1,200万円。70歳から約60万円を受け取るので、90歳まで生きれば元をとれる。
しかし、前述のように公的年金を繰り下げた場合、受給開始から12年弱で元がとれる。開始が70歳なら81歳時だ。通常の年金額240万円の男性が繰り下げを選んだときの増加額は年約100万円(240万円の42%)にもなる。公的年金の繰り下げを優先し、余裕があればトンチン年金を考えるのが合理的だ。
夫が会社員のパート主婦の働き方でも長寿化がカギだ。2016年10月から、従業員500人超の会社で週20時間以上働き、月収が8万8千円、年収換算で「約106万円」以上といった条件を満たすと、厚生年金に加入し、自分で厚生年金保険料などを負担することになった。それを避けるため働き方を調整する人も多い。「106万円の壁」だ。
しかし長寿化を考えると、厚生年金へ加入したほうがお得だ(表C)。例えば年収105万で働いていた人が「壁」を超え、110万円で10年働くと、保険料負担などにより手取りは計約110万円減る。一方、この例で、厚生年金の将来受取額は年約6万円。表にはないが、83歳時に、負担分を取り戻せる。
どうせ「壁超え」するなら大きく超えたい。2018年から、配偶者控除などを満額受けられる年収の上限が、従来の103万円から事実上150万円に上がった。
150万円で働けば105万円に比べ、保険料負担を補って、手取りは年19万円増える。厚生年金として年約8.2万円入るので、100歳で合計485万円もお得になる。
最後に定年後の働き方だ。60~64歳で人口の6割強は何からの形で働いているが、厚生年金への加入比率は3割強にとどまる。長寿化を考えると、加入する働き方も検討したい。
現役時代の年収が600万円だった人が、300万円で60歳以降5年働くと、年金は65歳以降、年12万円強増える(図D)。100歳まで生きれば累計で約450万円の増額だ。
老後資金の確保がより切実なのは自営業者だ。基礎年金しかなく、保険料を40年間納めた場合でも、夫婦合わせて月額約13万円だ。実際には満額納付していない人が多く、平均受給額は一人約5万1,000円だ。
満額に達していない場合、基礎年金は60歳以降も5年間は任意加入が可能だ。2017年度の保険料で計算すると5年分の納付額は約99万円。65歳以降、年約9万7,000円増えるので、75歳で納付分を取り戻せる。
厚生労働省は公的年金の今後百年の財政検証を2014年にまとめた。ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫主任研究員は「現役世代の手取りと比べた所得代替率は大幅に低下するが、受給額そのものは物価考慮後でもあまり減らない」と指摘する。
小野氏は「公的年金を軽視する人が多いが、終身受給でインフレにもある程度対応できるのは老後の大きな支え。最大限に活用すべきだ」と指摘する。(日経新聞等より)
自分の寿命は分からないので、想定して納得するしかないようだ。一般的には、出来れば夫は65歳から厚生年金を受給し、妻に対しては65歳まで国民年金と加給年金を支払う。そして2年繰下げの67歳で妻が受給すると言うのが得策のようだ。