いつからだったか年金の支給開始年齢が65歳から67~68歳とか70歳に上げられるとかで話題になりました。まだ決まってはないですが、いつになるかわかりませんが、いずれ上がるでしょうね。
他の国も早くから67歳あたりに決めてますし。日本はこれだけ長寿国になり、少子高齢化が進んで、今後もそれが進んでいく中で支給開始年齢の引き上げをやらないというのが逆に不自然な話です。
こんな事をいうと、「ちゃんと年金貰えるの!?」「年金制度大丈夫なの!?」という心配の声も多いですが、定められた年金加入期間とか貰える年齢の条件等を満たせばそりゃ貰えます。
こんな長生きの時代になったからいくら貯蓄でやろうっていっても、それより長生きしたらどうするんだって話です。ただ、昔みたいに年金は上がりにくくはなったので公的年金以外の自助努力も大切になってきますね。
長生きというのは見た目は良い事なんですが、逆にリスクでもあるんです。当然、老齢という事態になれば体力的にも衰えてしまうので、労働により所得を得る事は困難になってきます。ちなみにリスクというのは危険とかいう意味じゃありません。予測不可能な事態を指します。不確実性ともいわれます。いつまで生きるかなんて、誰にもわからないから。
誰にもわかんないから、年金保険料払って「長生き」というリスクに備えて保険かけてるんです。なんか、保険料ちゃんと支払った分将来年金貰えるのかとか元が取れるかどうかの話も盛んにはなりましたが、「なんとなく勘違いされてるのだろうなぁ」って思います。
ちなみに、他のリスクである自分が死んだ時に残された家族の生活保障の為の遺族年金や、自分が傷病により労働して所得を得るのが困難になった時の障害年金もあるので、公的年金は人生における三大リスクに備えた保険であるといえます。よって公的年金は高齢者だけに関するものじゃないですね。
さて、いずれ68~70歳とかに支給開始年齢が上がる日が来るかもしれませんが、支給開始年齢を上げる時はいきなり上げません。大体、十数年とか20年くらいの年月をかけて上げていきます。いきなり上げたら生活設計狂いますから。
だけど、歴史的に今まで支給開始年齢を上げる時はそう簡単にはいかなかった。当然強い反発があるからです。まず、支給開始年齢を上げる時は雇用の問題というのはセットです。
当時の厚生省(今の厚労省)が「支給開始年齢を上げなければヤバイ!」と、支給開始年齢上げようとしたのは昭和55年から(年金支給開始年齢60歳から65歳に上げる)。しかし、まだ定年が55歳という企業が多くて野党や労働者団体、日経連も猛烈に反発して、当時の自民党も反対したので断念。別に今すぐ上げるわけじゃなくて20年とかそのくらいかけながら、その間に雇用対策も頑張りながら支給開始年齢上げようって話だったのにです。その頃の諸外国はもう大半が65歳支給開始年齢に決めていた。
なぜ支給開始年齢を上げようとしたかというと、昭和30年くらいは平均寿命が男63歳で女67歳だったのが、昭和55年では男73歳で女78歳になって長生きする人が増え、また、年金制度ができてから年金受給権を得た人が退職して年金世代に突入する人が急増し始めたからです。平均寿命が50~60歳くらいの時に作った年金制度をそのままにしておく自体無理があるというものです。
支給開始年齢を上げようと再度、昭和60年改正、平成元年改正の時も年金支給開始年齢の60歳から65歳への引き上げを国会に提出するも法案が見送られたが、昭和60年に女子の平均寿命はついに80歳になった。
でもとりあえず、昭和60年改正の時に女子の厚生年金支給開始年齢と共済組合の支給開始年齢がまだ55歳だったから、この辺は60歳に引き上げられた。女子は昭和62年から平成11年にかけて、共済組合は昭和60年から平成7年にかけて引き上げた。
その間、昭和45年に年間年金給付が1兆円弱だったのが、昭和55年で年間10兆円程に膨れ上がった。その10年後の平成2年には年間24兆円になった。更にその10年後の平成12年には年間41兆円になった。平成22年には53兆円になり、今現在は57兆円程です。
そして、やっと厚生年金の支給開始年齢引き上げが決まったのは平成6年で、実際の引き上げが始まったのは平成13年(2001年)からなんです。
※厚生年金支給開始年齢(日本年金機構)
65歳までの支給開始年齢引き上げスケジュールはこんな感じで進んでいます。
なお、共済組合は男女とも男子の厚生年金支給開始年齢と同じスケジュール。
「支給開始年齢引き上げないとヤバイ!」って昭和55年に今の厚労省が引き上げ求めてから平成13年の着手まで実に20年くらい先延ばしされたんです。65歳に完璧に引き上げ完了するのは、2030年。まだまだ先の話。
60歳から65歳に引き伸ばす為に、昭和55年(1980年)から支給開始年齢引き上げに着手したかった事を2030年でやっと完了するわけです。ちなみに、今年60歳になる昭和32年生まれの女子の厚生年金支給はまだ60歳からです。
やっと政府が平成6年に厚生年金の支給開始年齢の引き上げを受け入れたのは、定年の60歳未満を禁止にしてさらに65歳までの継続雇用なんかを企業に努力しましょうって法律で決めたからです。
60歳定年後の雇用継続や再雇用なんかは普通は給与が下がるから、60歳到達時賃金よりその後の給与が75%未満に下がるようであれば、最長65歳まで雇用保険からの給付金(今現在は下がった給与の最大15%支給)も導入された。
しかし、今の平均寿命が男81歳で女87歳の時代にまだ完全に支給開始年齢が65歳になりきってないというのはなんとものんびりな話です。女子は2050年には平均寿命90歳代突入の見通しですからね。
支給開始年齢を上げるっていうのは、年金財政を安定させる為には非常に有効ではあるんですが、そう簡単に決めさせてくれないし、決まってもゆっくりと引き伸ばすからいきなり支給開始年齢を68歳とか70歳に決まる事は無いです。
話は変わりますが、「今の年金額じゃそもそも暮らせない!上げてもらわなければ困る!」っていう声は確かに切実な問題ではあるんです。支給される年金額の平均額をみると、どうやって生活するのかと、複雑な気持ちにさせる年金額の人がいっぱいいます。
それに今までの年金加入記録や、また、その時その時の生まれた時代の背景もあるしで特例なども沢山あるから一人一人年金額はもうバラバラなんです。ただ、今みたいに経済が停滞してるような時期に年金を上げるというのはやはり危険です。年金の主な財源は現役世代の保険料ですから。
今の年金給付費は年間57兆円ですが、保険料収入から40兆くらいで、税金から10兆円余りと、積立金(今は144兆くらい)の運用収入から5兆円前後くらいで賄ってる。
「年金積立金が運用で減ろうもんなら年金大変だ!もう年金貰えなくなる!」って世間は大騒ぎますが、積立金から主に支払ってるわけじゃないですからね。あくまで流動的というか補助的というか。その年の運用が悪くて積立金が何兆円か減っちゃうとメディアもいかにも大変な自体が起こったかのような報道をしますが、「何でおかしな所で不安煽ってんだろう?」といつも思います。そりゃ何十年も長期的に運用していくわけだから運用が良かったり悪かったりする時もありますよ。
そもそも日本の積立金は巨額すぎます。だから平成16年改正の時に当時の年金給付の3~4年分あった積立金は多すぎだから、積立金を取り崩しつつ年金給付に充てながら将来的には1年分くらいまで減らそうってなったんです。
ちなみに平成13年に積立金の自主運用が始まってから今まで50~60兆は収益上げてきてます。平均収益率が年率3%くらいプラス。なんていうか、その年その年だけの運用状況に一喜一憂して全体を見ようとしないのはいけないことです。
また、逆に「140兆も積立金あるんならそれから年金を主に支払えば?」って思われた人もいるかもしれませんが、たかだか140兆程度の積立金では年金給付は3年ももちません。だって、上記のように年金を年間57兆円も払っているのですから。
ところで、年金額を上げるというのは、保険料も上げないといけない。しかし、デフレで給料が上がらない中で保険料ばっかり上げるような事をすれば、年金世代の支え手である現役世代の生活は潰れてしまいかねないから、年金受給者世代も打撃を被る事になります。
昭和30年から昭和49年になるまでは高度経済成長期といって、経済がどんどん成長するから給料も毎年ぐんぐん上がりました。例えば、従業員30人以上の労働者の平均賃金が昭和30年に月13,000円くらいだったのが昭和40年には25,000円くらいになって、昭和50年には75,000円くらいになった。
まあ、昭和48年11月の第一次オイルショックが起きるまでは経済成長は著しいものでした。余談ですが、この時のオイルショックで16%物価が上がって、更にその翌年の昭和49年の物価は21%上がったんです。だから、年金も物価が上がった年の翌年に同じ率上げたから、一気に年金も上がったりしたんですけどね。
年金を物価変動に連動させるっていう物価スライド制が導入されたのは昭和48年改正だったから、丁度のタイミングでありました。オイルショックで経済成長が急激に鈍り始め税収が落ち込み、昭和50年に初めて財政赤字が発生したけれども、平成3年のバブル崩壊まではとりあえず経済成長は右肩上がりだったんです(バブル崩壊までは経済の安定成長期だった。中成長期ともいう)。それ以降の平成の時代はずっと経済は停滞。物価も賃金も上がらないとか、逆にマイナス。
経済成長もするし、給料上がっている時は保険料上げてもいいかもしれませんが、実際平成16年の年金大改正が行われるまでは、せめて夫婦合わせての年金が男子の現役時代の給料の60%台は確保する為に、保険料の額をその給付に見合うように5年ごとの年金額の再計算で決めていきました。
でも、経済は成長しないし給料が上がらない、少子高齢化は進む一方なのに、その現役時代に対して年金60%台に見合う為の保険料ばっかりぶん取ったら現役世代はたまりませんよね。しかも、これからもますます高齢者が増え、少子化は改善しない中で「年金給付は今まで通り!逆に上げろ!」っていっても無理があります。合計特殊出生率もこの間1.46から1.44に下がりました(最低だったのは平成17年の1.26)。そして、2016年出生数は初めて100万人切った。
最終的には高齢化率が40%(2060年頃から)で推移するような中で、保険料を無限に上げれば給料の手取りもますます下がりますよね。だから、こんな経済は回復しない、給料は上がらない、少子高齢化は進む中でも年金制度を将来に向かって維持可能にし、後世代の保険料負担をあまりに過重にしないために平成16年改正の時に保険料負担の上限を決めて、もちろん保険料という年金給付に充てる収入の上限が決められたんなら、年金給付もその収入の中で支払うようにしないとやっていけなくなりますね。
だから、平成16年の年金改正の時に平均余命の伸びによる年金受給者の増加や現役世代の減少という、年金制度にとっては負担増になる経済的な事を、年金を引き上げる物価や賃金の伸びから引いて(マクロ経済スライドと呼んでいます)、年金の上げ幅を抑制しながら、将来は給付と負担を均衡させて維持するような制度に改めたんです。
今年9月をもって厚生年金保険料率は上限18.3%に固定され、今の国民年金保険料は平成31年4月の17,000円で上限になりますが、上限を決めなかったら厚生年金保険料率のピークは平成37年あたりに34.5%とか国民年金保険料は29,500円あたりになってしまうでしょう。
「もう年金制度を廃止しろ!」っていう声もよくありますが、もし廃止するような事になれば、公的な負担(年金)から自己負担に変わるだけです。今の年金受給者世代であるおじいちゃんおばあちゃん、これから年金を受給する事になる60代以上の人達の年金がもし廃止されるような事になれば、子世代が個人で仕送りなどで負担する事になります。どう考えても、そんな事になれば今の年金保険料負担の数倍はかかりますよね。というわけで年金というのはいろいろな時代の背景が絡んでいるわけで、とんでもない混乱が生じるでしょうね。
支給開始年齢を上げようとするのも、別に意地悪をしようとしてるのではなく、時代に合わせて将来も維持可能な年金制度にするためなんですね。それにしても、高齢化率40%になる頃の2060年っていったら、今年金を納め払い始めた人が年金を幾ら貰えるか心配する頃ですね。(MAG2NEWS等より)
若い時は「年金なんて」と言っていた人も、60代に近づくと「何時から、幾ら貰えるか」と気になります。「もう少し払って置けば良かった」と嘆く人もおられます。寿命が長くなっている現在では、自分自身がいつまで生きるか分かりませんので、老後のことを年金も含めて、考える時間を持ってそれに備える方が良いですね。