社会保険制度の中には、「日付」が保険料や給付額に影響するものがいくつかある。会社員なら退職日に要注意。年金保険料が未納になったり、失業手当(基本手当)の給付額が変わったりする場合がある。医療保険制度でも入院時期によって負担額が変わることがある。仕組みを知って上手に使いたい。
東京都内に住む会社員の女性Aさん(34)は昨年1月30日付で前の会社を退職した。31日が日曜日だったためで、新会社で2月1日から働き始めた。しばらくすると、年金事務所からこんな通知が届いた。「1月の国民年金保険料が未納になっています」
年金事務所に問い合わせたところ、厚生年金保険の加入期間は前の会社が前年12月までで、新会社は2月から。Aさんは切れ目なく転職したつもりだったが、1カ月分の「空白期間」ができていた。
社会保険労務士の佐佐木由美子氏は、「給料から天引きされる保険料は原則、資格喪失日が属する月の前月分まで」と説明する。資格喪失日とは退職日の翌日のこと。Aさんは1月31日に厚生年金の資格を喪失したため、給料からは12月分までの保険料しか引かれていなかった。もし退職日を31日付にしていれば、厚生年金保険の資格を切れ目なく継続できたことになる。
年金保険料の未納期間は1カ月分だけなので問題ではないと思う人もいるかもしれないが、「障害年金を受けられないことがあるので注意したい」(佐佐木氏)。障害年金は直近1年間に保険料の未納がないことなどが受給の条件となる。転職を繰り返し、未納が続いた可能性がある人は念のため調べておきたい。
雇用保険は65歳の定年退職の前後に注意が必要だ。65歳未満で退職すれば自己都合の場合、基本手当が最大150日分支給されるが、65歳以上だと「高年齢求職者給付金」として基本手当の最大50日分を一時金で受け取ることになる。基本手当の日額は、退職直前6カ月の毎月の賃金(賞与等は除く)の合計を180で割った額の50~80%が目安だ。
65歳未満で退職したほうが給付日数が多いため得なように見えるが、そうとは限らない。今年1月から65歳以上の人が新たに就職した場合も、雇用保険に加入できるようになった。「一定の条件を満たせば、65歳以上でも就職活動をするたびに高年齢求職者給付金が何度でも給付される。損得については慎重に考えたい」と社会保険労務士の中村恭章氏はいう。
医療保険にも日付が重要になる制度がある。入院などで高額な医療費がかかった場合に自己負担額を抑えられる高額療養費制度だ。医療費を1カ月単位で計算するので入院期間が2カ月にまたがると制度を使えないケースがある。
例えば、5月1日から10日間入院して退院し、窓口で15万円支払ったとする。標準報酬月額30万円の人だと、1カ月の自己負担限度額は約8万2,000円。申請すれば6万7,000円強が戻ってくる。
しかし、5月25日から6月3日まで10日間入院し、5月、6月分とも7万5,000円(合計15万円)かかった場合は、自己負担限度額を下回るので同制度が使えず15万円の負担のままだ。一刻を争うような入院でなければ、入院時期について病院に相談してみるのも手だ。(日経新聞等より)
社会保険制度は日付が重要な場合が多い。少し知っているだけで損得に違いが出て来る。できるだけ仕組みを知って上手に使いたいものだ。