いつ頃くらいか忘れたが、熟年離婚がいろいろ話題になり始めましたが離婚の増加に伴い、元配偶者から年金を分けてもらいたいという人もいつからか多くなりました。その要望に応える為に年金制度にも年金分割制度が平成19年4月から始まりました。まあ基本的には夫婦の合意で決めます。
分ける割合(按分割合という。最大2分の1→最大50%)を決めて、公証役場で公正証書または私署証書を作って、それを持って年金の離婚時分割請求をする。請求はもちろん離婚後です。
なお、当事者双方またはその代理人が年金事務所に合意した按分割合を証明する文書(年金事務所備え付けの書式を使ってもいい)を提出すれば、公正証書や私署証書は要らない。
元配偶者が分割に応じない等の場合は家庭裁判所に申し立てをして、按分割合を決定する。裁判で作成された調停証書や審判書等で分割請求の際に添付する。
ただし平成20年4月以降(厳密には平成20年5月1日以降)の離婚については、配偶者の扶養に入っていた(第3号被保険者)の部分は話し合いをせずに、例えば元夫から元妻に年金を分けてもらいたい場合は元妻からの一方的な請求で年金記録を半分分けてもらえます。
こういうわけで配偶者から最大半分の年金が分けてもらえるってよく話題になりました。今もまだよく誤解がありますが単純に半分分けてもらうのではありません。
正確には、「婚姻してから離婚までの厚生年金保険料納付記録」を分けてもらうのが年金の離婚時分割です。
年金計算の元となる、今までの給与(標準報酬月額)とか賞与(標準賞与額)を分割するわけです。なお、個人単位に与えられた国民年金からの給付である65歳からの老齢基礎年金を分けてもらう事は出来ません。分けるのはあくまで世帯単位の年金である厚生年金や共済組合の老齢厚生年金(報酬に比例する部分)です。
というわけでまずは夫婦で按分割合を決める「年金の合意分割」の事例です。計算自体は非常に複雑な計算をする為、簡易にしています。イメージを掴んでいただければと思います。
①.昭和22年6月14日生まれの夫(今70歳)
・20歳になる昭和42年(1967年)6月から昭和50年(1975年)7月までの98ヶ月国民年金保険料納付済。
・昭和50年(1975年)8月から平成18年(2006年)2月までの367ヶ月厚生年金。
・平成18年3月から60歳前月の平成19年5月までの15ヶ月未納。
とりあえず老齢厚生年金1,200,000円(月額100,000円)、老齢基礎年金は779,300円÷480ヶ月×465ヶ月=754,947円とします。夫の年金総額1,954,947円。
妻とは昭和58年12月に婚姻し、平成29年7月に離婚する事になって妻からは年金の離婚時分割を求められた。分割割合は50%(つまり2分の1)を希望。
婚姻した昭和58年(1983年)12月から平成18年2月までの267ヶ月の厚生年金記録のみで計算すると老齢厚生年金は960,000円(月額8万円)とします。この267ヶ月の厚生年金保険料納付記録を分割する。
婚姻前の昭和50年8月から昭和58年11月までの厚生年金記録のみで計算すると老齢厚生年金は240,000円(月額2万円)とします。ここは婚姻前の記録だから年金分割対象外となる。
②.昭和27年3月20日生まれの妻(今65歳)
・20歳になる昭和47年3月から昭和58年11月までの141ヶ月は国民年金保険料納付済。
・厚生年金被保険者であった夫と婚姻した昭和58年12月から昭和61年3月までの28ヶ月は国民年金保険料納めるかどうかは任意だったので納めなかった。この28ヶ月は年金を貰う権利を獲得するための年金受給資格期間25年(平成29年8月からは10年)に含むためのカラ期間。
・そんな妻も昭和61年(1986年)4月の年金大改正から国民年金に強制加入となり、平成12年(2000年)3月までの168ヶ月は夫の扶養に入って第3号被保険者となる。第3号被保険者期間は妻独自に年金保険料は支払わないが、納付済期間となる。
・平成12年4月から平成16年(2004年)3月までの48ヶ月間は厚生年金に入った。この間の老齢厚生年金は120,000円(月額1万円)とします。
・平成16年4月から夫の最終厚生年金加入の平成18年2月までの23ヶ月は再度第3号被保険者となり、平成18年3月から60歳前月になる平成24年2月までの72ヶ月間は国民年金未納。なお、この妻はすでに25年以上あるからカラ期間不要です。
妻の老齢基礎年金は、779,300円÷480ヶ月×(141ヶ月+168ヶ月+48ヶ月+23ヶ月)=616,946円。ちなみに、夫の厚生年金期間が20年以上あった為、妻の老齢基礎年金には振替加算(この妻の生年月日だと年額74,692円)という加算がされているものとします。
※加給年金と振替加算(日本年金機構)
よって妻の年金総額は老齢基礎年金616,946円+振替加算74,692円+老齢厚生年金120,000円=811,638円。離婚後に年金の離婚時分割をしなければ、妻はこの年金額がベースです。
でも、夫婦の合意により夫から厚生年金記録を最大2分の1(50%)分けてもらう事にした。これは、元夫婦で分割の割合決めるので必ずしも50%の割合になるわけではありません。でも離婚分割の95%以上は50%を選択してます。
まず夫の「婚姻前」の老齢厚生年金月額2万円、「婚姻後」の老齢厚生年金月額は8万円。妻の厚生年金記録は婚姻後の老齢厚生年金月額1万円のみ。これを夫から妻に厚生年金記録を半分分けると…
(夫の婚姻期間中の老齢厚生年金8万円+妻の婚姻期間中の老齢厚生年金1万円)÷2=45,000円。
よって年金の離婚時分割後の夫の老齢厚生年金月額の総額は、2万円+45,000円=65,000円(年額780,000円)。一方、妻の老齢厚生年金月額の総額は45,000円(年額540,000円)となる。
年金の離婚時分割後の夫の年金総額は老齢基礎年金754,947円+老齢厚生年金780,000円=1,534,947円(月額127,912円)。離婚時分割しない場合の年金総額1,954,947円よりも420,000円の減額になりました。
妻は老齢基礎年金616,946円+振替加算74,692円+離婚時分割後の老齢厚生年金540,000円=1,231,638円となる。しかし、この年金の離婚時分割により妻は20年以上(この夫から267ヶ月と妻自身の48ヶ月合わせると315ヶ月)の厚生年金期間があるものとみなされ、振替加算74,692円は消える(失権)。
※注意:婚姻から離婚までの期間の厚生年金保険料納付記録が分割されますが、期間そのものを相手に与えるわけではなくて「みなしている」ので、離婚分割の期間で年金受給資格期間25年(平成29年8月から10年)を満たせるわけではないので厳重注意!年金受給資格期間はあくまで個人が年金に加入して自分で期間を満たさなければ年金は貰えない。年金加入期間を分割はしない。
よって、妻の年金の離婚時分割後の年金総額は老齢基礎年金616,946円+離婚時分割後の老齢厚生年金540,000円=1,156,946円(月額96,412円)。
まあ、振替加算74,692円は消えましたが、離婚時分割しない場合の年金総額811,638円よりも345,308円増額しました。だから、夫の年金総額1,954,947円を単純に半分貰うわけではないので誤解のないように。
年金の離婚時分割の請求は離婚日の翌日から2年以内に請求し(年金の標準報酬改定請求)、請求月の翌月から年金額が変更になります。また、自分の本来の年金支給開始年齢が来ていない人は、本来の支給開始年齢が来てからの支給になります。
なお、年金の離婚時分割をしたい場合は一体どのくらいの年金額になるのか、どのくらいの期間の年金記録を分割するのか等の必要な情報が分からないので、まずは年金事務所に情報提供請求(これは年金額を変更してもらう請求ではない)を行います。50歳以上で既に年金受給資格期間を満たしている人は見込み額も知る事が出来ます。
情報提供請求は離婚前でも構いません。自分の基礎年金番号のわかるものと戸籍謄本を持っていけば情報提供通知書で通知してもらえます。自分一人で情報提供請求した場合は、自分一人に郵送または窓口での交付になります。離婚後の場合は元配偶者にも通知されます。
以上は年金の合意分割でしたが、もう一つは年金の3号分割。これは、平成20年4月以降に配偶者の扶養に入って第3号被保険者となっている場合は、元配偶者の合意無く一方的に年金事務所に分割請求して厚生年金記録を2分の1(50%)に分割します。
例えば、夫が平成20年4月から平成29年6月まで厚生年金に加入していて、その間妻が夫の扶養に入って第3号被保険者だった場合は、離婚後に妻が一方的に3号分割を請求して厚生年金記録を分割する制度です。
夫の平成20年4月から平成29年6月までの老齢厚生年金を仮に400,000円とすれば、その半分の200,000円を強制的に妻に分割するわけです。これにより、元夫婦両者とも老齢厚生年金が200,000円になる。
というわけで、年金の離婚時分割はあくまで婚姻から離婚までの厚生年金や共済組合の納付記録を分けるものなので、期待してたほど年金額は増えない事もよくあります。
あと、離婚した後に話を進めると離婚分割請求の原則2年のリミットもありますし、標準報酬改定請求月の翌月から年金額が変更になる(年金受給者の場合)ので按分割合等の話し合いは離婚前に話を終わらせておいたほうがいいですね。(MAG2NEWS等より)
※年金の離婚時分割(日本年金機構)
今は定年離婚だけでなく、死後離婚まである時代。年金以外にもいろいろ調べておくのも良いですが、子供のためにも円満な家庭を築いて欲しいものです。