2017年は、アジアの新興国市場は「健康」が重要なキーワードになりそうだ。経済成長が著しいアジア新興国は、人々の暮らしが豊かになるにつれ健康不安が増している。肥満、喫煙、有害物質などに厳しい目が向けられるなか、政府や企業は対策を講じ始めた。今後は、食品や日用品など広範な分野で健康志向の商品やサービスの需要がいっそう高まっていくとみられる。
インド南部ケララ州は、世界でも珍しい「肥満税」を昨年7月に導入し、話題となった。同国は経済成長に伴う生活様式の変化や食の欧米化が進んで肥満が増加、社会問題化している。
現地紙タイムズ・オブ・インディアによると、インド商工会議所連合(ASSOCHAM)は昨年11月、若年層の健康に関する調査結果を発表。5~16歳の調査対象者1万人のうち65%が肥満状態にあり、10人に1人が糖尿病など生活習慣病のリスクを抱えているとした。ジャンクフードなど高カロリー食品の摂取過多や屋外での運動不足などが要因だ。
ケララ州の肥満税は、ハンバーガーやピザなど欧米の特定ブランドの商品に対して14.5%の税を課す。米マクドナルドや米ケンタッキーフライドチキンといった有名ブランドが対象で「欧米のファストフードを狙い撃ちにした差別的な法律だ」といった批判もあるが、一定の評価を得ており、西部マハラシュトラ州などでも法制化を目指す動きがある。
さらに、同国は全国の学校でもカロリーが高く栄養価が低いジャンクフードを排除する動きが広がっている。インド市場では今後、ファストフードなどの外食産業にとどまらず、食品メーカーや小売業なども健康維持に一段と配慮を求められていきそうだ。
インドネシアでは、たばこに対する政府の取り組みに注目が集まる。同国はたばこの消費量が中国、ロシア、米国に次ぐ世界4位で、15歳以上の男性の喫煙率は67.4%で世界最高。たばこが原因とされる病気の治療コストは国内総生産(GDP)の0.3%に相当する年間11兆ルピア(約955億3,500万円)に達するという。
現地紙ジャカルタ・ポストなどによると、同国政府はたばこが国民の健康に悪影響を与えているとの見解で、メディアでのたばこ広告を禁止したほか、今年からたばこ税を10.5%増税するといった措置を講じている。
その一方で同国政府は、世界保健機関(WHO)のたばこ規制に関する条約に加盟せず、たばこ産業を重視する姿勢も示している。
ジョコ政権の姿勢に対し、政府内部からも「このままでは10年以内に世界最大のたばこ消費国になる」と批判的な意見が上がるなど、たばこの抑制に向けてより積極的な取り組みを求める声が高まりつつある。
インドネシア大学の調査によると、たばこの抑制には販売価格の値上げと増税が有効だ。同国のたばこ価格は、東南アジア地域で最安水準の1箱当たり約2万ルピアだが、喫煙者1,000人の72%が5万ルピアになれば禁煙すると答えたほか、76%が増税を支持した。こうした声にどう応えていくのか、政府の今後の方向性に注目が集まっている。
アジア新興国は、消費者の健康意識が高まると同時にスマートフォンの普及拡大などで情報化も急速に進んでいる。このため、各国の政府や企業は風評被害などへの対策も重要だ。
ベトナムでは昨年10月、民間非営利団体(NPO)が同国で調味料として日常的に使われるヌクマム(魚醤)のサンプル調査でヒ素が検出されたと発表。報道に加え、インターネットの交流サイトでも情報が拡散して消費者の間で動揺が広がり、政府は対応に追われた。
国営ベトナム・ニューズなどによると、このNPOは150のサンプルのうち、3分の2以上で基準値を超えるヒ素が検出されたと発表。しかし、同国政府は「検出されたのは人体に無害な有機ヒ素で、政府が規制している無機ヒ素ではない」と主張。新たに264のサンプル調査を実施して「ベトナム産ヌクマムに問題はない」と確約した。
その後、風評被害による売り上げ減で関連産業に損害を与えたとして、政府が報道各社に罰金を科し、同NPOが非を認めて謝罪声明を発表するなど、ベトナム国内では騒動の余波がしばらく続いた。ネットを通じた情報交流が日常化している現在、こうした事例はどこの国で起きても不思議はない。
このほか、フィリピンは加糖飲料への課税を検討、ミャンマーは保健省食品・医薬品局が消費者の食の安全を脅かす違法商品の取り締まりを今年から強化すると宣言するなど、アジア新興国では健康をめぐって政府の動きが活発になってきた。
フィリピンも有機栽培のものが人気を得て健康意識が高まって来ている。野菜を売っている農業直売店も、別の店で普通の野菜を売っているなどもう一つ信用出来ない店もあるが、有機野菜を使ったレストランも増えて来ている。