さびにくさから自動車や住宅に幅広く使われるステンレスの原料、ニッケルの供給が政策に揺れている。アジア最大の鉱石生産国だったインドネシアが製錬業育成のため未加工鉱石の輸出を禁止。フィリピンでも新政権が環境配慮から一部の鉱山で操業を停止させた。２０１６年はニッケルが６年ぶりに供給不足に転じ、２０１７年以降も続くとの見方がある。住友金属鉱山などの日本企業や中国企業は安定調達への取り組みを迫られている。
「すぐに撤回すると思っていたのに……」。日本のニッケル製錬大手幹部は、インドネシア政府が２０１４年１月に始めた国産ニッケル鉱石の国内での製錬義務化を見くびっていたと振り返る。
義務化は国内での製錬所建設を促し、鉱業の付加価値を高めるのが狙いだ。ニッケルの鉱石の輸出は一律禁止で、２０１４年10月に発足したジョコ政権も継続している。政権内部では規制緩和すべきではとの声もあるが、完全な輸出解禁は望み薄だ。
この政策で鉱石の生産国として躍進したのがフィリピンだ。世界シェアは２０１０年の３位から２０１５年には首位に浮上。インドネシアは２位から６位に転落した。ニッケルは日本と中国で世界消費量（純ニッケル量ベース）の６割を占めるが、アジアの鉱石調達の業界地図は大きく塗り替わった。
世界の５割を消費する中国の輸入元は２０１０年はインドネシアとフィリピンが半々だったが、２０１５年は実に９７％をフィリピンが占めた。日本では全輸入量の５割超だったインドネシア産が２０１５年はゼロに消滅。フィリピン産は２９％から６０％、ニューカレドニア産は１８％から４０％にそれぞれ上昇した。
背景には日本企業の調達先のシフトがある。ステンレス大手、日本冶金工業は「ニューカレドニア側と長期間の安定供給で合意した」（野田真人常務執行役員）。インドネシアの禁輸以前、同国産とニューカレドニア産の比率は７対３だったが現在は全量がニューカレドニア産だ。
国内製錬最大手の住友金属鉱山。フィリピンにも製錬所を持つが、日本への鉱石輸入は「かつてはインドネシアとニューカレドニアが半々くらいだったが、現状は後者がほとんど」（金属事業本部）と明かす。
一方、大平洋金属は世界最大の供給国のフィリピンに調達量の８割を頼るようになった。その同社が気をもむ動きがフィリピンで起きている。
震源は６月末に発足したドゥテルテ大統領率いる新政権だ。鉱山が豊富な南部出身のドゥテルテ氏はかねて乱開発による環境破壊を問題視。ロペス環境天然資源相も環境保全ではタカ派とされ、検査を経て複数のニッケル鉱山が操業停止に追い込まれている。
比ニッケル大手のグローバル・フェロニッケル・ホールディングス。ダンテ・ブラボ社長兼最高経営責任者（ＣＥＯ）は米メディアの取材に対し、「２０１６年のフィリピンのニッケル鉱石輸出は前年比で最大３割減るかもしれない」と述べた。
６年ぶりのニッケル供給不足も現実を帯びる。生産国などで構成する国際ニッケル研究会（ＩＮＳＧ）は昨年１０月下旬、２０１６年の生産量が需要より３．３％少ない１９３万４千トンになると発表した。２０１７年も３％程度不足するとみる。ニッケルの国際先物価格は足元で１トン１万ドルを超え、年初に比べて約２割高い。
ニッケルの安定確保のためにはやむ無しとばかり、中国企業はインドネシア政府が望む同国での製錬に踏み出した。大手の青山集団はスラウェシ島に製錬所を建設し、２０１５年にニッケル銑鉄の輸出を始めた。
中国の複合企業、新華連集団傘下のマクロリンク・ニッケル・デベロップメント（ＭＮＤ）も地元企業と組み、同島でフェロニッケル製錬所を建設中だ。中国勢のプロジェクトは従来の市況低迷で未着手のものも多かったが、価格上昇で一気に進むとの見方がある。
アジアの政策に翻弄されるニッケル。残るニューカレドニアも日本の石油天然ガス・金属鉱物資源機構（ＪＯＧＭＥＣ）は「輸出量に限度がある」と指摘する。日本各社も産出国への製錬所移転など、踏み込んだ対応を迫られる可能性がある。（日経新聞等より）
ニッケルは錆びにくさから幅広く使われているステンレスの原料で需要は増えているが、産出国であるインドネシアは資源国の付加価値を高めるため、鉱石だけの輸出を２０１４年に禁止した。フィリピンは、ドゥテルテ新政権が乱開発による環境破壊を問題しして、多数の鉱山が閉山に追い込まれている。
