日本の伝統的飲み物である“お茶”(緑茶)。国内ではお茶離れが徐々に進む一方で、緑茶の健康効果についての研究が国内外で進行しており、緑茶に秘められた健康パワーが次々と明らかになっている。最新の「緑茶の健康効果」を専門家の方々に話を聞いた。今回は、前回に引き続き“お茶博士”、大妻女子大学名誉教授の大森正司さんに、注目の緑茶成分「テアニン」の効果と、お茶パワーをフルに活かすためのいれ方、飲み方を伺う。
前回は、緑茶パワーの働き、なかでも「カテキン」の働きについて、解説していただいた。カテキンは、ダイエットや抗酸化作用から抗菌、抗ウイルス効果まで多彩な健康パワーを持っている。その一方で、もう一つ忘れてはならないのが、うまみ成分「テアニン」だ。
このテアニン、緑茶に含まれるうまみ成分のアミノ酸の一種で、ここ1、2年で頻繁に取り上げられるようになった“今注目”の成分だ。テアニンにはリラックス作用があり、ストレス緩和や睡眠の質を改善する効果なども期待できるという。昨年4月にスタートした「機能性表示食品」制度では、テアニン入りの食品が複数登場し脚光を浴びている。例えば、「緊張感を軽減するサプリ」「健やかな眠りをサポートするむぎ茶」などが登場している。この注目の成分テアニンについて詳しく聞いていこう。
緑茶のうまみ成分「テアニン」には、優れたリラックス作用があるようです。そもそも、テアニンとはどういった成分なのだろう。
緑茶に含まれる注目の成分「テアニン」の構造。テアニンはアミノ酸の一種
テアニンには、リラックス効果があるということで、今、その働きが注目されています。テアニン入りの水溶液を摂取後、40分くらいすると脳波にアルファ波(α波)が出るという研究結果があります。α波は脳内の大脳辺縁系が香りなどの刺激を受けたときに出る脳波で、α波が出ると、人はリラックスした気分になります。
さらに摂取後、40分後くらいまで副交感神経の活性度が増すことも明らかになっています。緊張・ストレス状態のときに働く交感神経に対し、副交感神経はリラックスしているときに働く神経系です。テアニンを摂取することでリラックスできるわけです。
緑茶を飲んで「ホッと一息」というシーンはテレビドラマの風景にもよく登場しますが、まさに心も脳もほっこりさせてくれるのがお茶なのです。
テアニンにより、ストレスの緩和などの効果も期待できます。静岡大学が2012年に行った研究では、物理的、あるいは精神的ストレスに対してテアニンが抑制作用を発揮する、という結果が報告されています(J Physiol Anthropol.;31,28,2012)。この研究では、14名の男女学生が、テアニン200mg、偽薬(プラセボ)、カフェイン100mgのいずれかを経口摂取しました。その後、心理的ストレスを与えたり、氷水に手を漬けるなどのストレスを与えたところ、テアニンを摂取した場合、緊張やうつ、敵意や疲労などのスコアが最も抑えられたという結果になっています。
テアニンを摂取した場合、緊張やうつ、敵意や疲労などが抑えられた。縦軸は、気分・感情を表す指標(POMSスコア)で、低いほど緊張などが抑えられたことを示す(J PhysiolAnthropol.;31,28,2012)
さらには、睡眠の質を改善する効果も期待できるという報告もあります(日本生理人類学会誌,9(4),143-150,2004)。また、動物実験では、テアニンが脳神経細胞の障害を軽減し、神経細胞を保護することもわかっています。
緑茶にはカフェインも含まれており、覚醒効果がありますが、テアニンには興奮を適度に抑える働きがあるため、カフェインによる興奮が穏やかな作用にとどまります。
湯のみ1杯(80cc)に含まれるテアニンの量
お茶を飲むとリラックスできることには、科学的な裏付けがあるのです。テアニンは、一番茶で初期の若い芽に最も多く含まれています。玉露のように日光を遮断して栽培すると、アミノ酸からカテキンに変化するのを抑えられるので、茶葉にテアニンがたっぷり含まれたままになります。このため、新茶や玉露は、うまみ成分が多くなります。また、抹茶にもテアニンが多く含まれています。
テアニンをたっぷり抽出する「氷水出し茶」。水80~100cc(氷を除く)に対して茶葉10gを急須に入れ、10分待って湯飲みに注ぐ。カフェインはほんのわずかしか抽出されない
急須に茶葉を入れ、氷水を加えて10分抽出したものです。テアニンをしっかりとりたい場合は、“氷水出し茶”にすると、渋み成分であるカテキンが少ないために、テアニンによるうまみがより強く感じられます。お湯でいれるより、1.5倍ほどうまみが増すのです。氷水出し茶の場合は、お湯でいれたお茶と違ってカフェインはほんのわずかしか抽出されないので、夜寝る前でも安心して飲むことができます。一方、カテキンやカフェインが多く抽出された渋いお茶にしたい場合は、温度の高いお湯で抽出するといいわけです。
緑茶にはカフェインが含まれています。カフェインというと「飲み過ぎると悪影響があるのでは」と少し気になりますが、煎茶の場合、100g当たりのカフェインの量は20mg程度で、コーヒーの3分の1程度です。湯飲み1杯80ccとすると、そこに含まれるカフェインは16mg程度となります。欧州食品安全機関(EFSA)が2015年に発表したカフェインの安全性に関する科学的意見書では、1日の上限量を400mgとしていますから、25杯以上飲まないと飲み過ぎにはならないのです。もちろんカフェインの摂取量には気を付けた方がいいのですが、一般的な飲み方なら心配する必要はないでしょう。
気を付けた方がいいのは、カフェインの影響が心配される妊婦さんの場合です。妊婦の場合は1日あたりの許容量は200mg以下とされています。これを80ccの湯飲みで換算すると、12杯程度までなら許容範囲なわけで、日常でお茶を飲む量でオーバーすることはないと考えます。通常飲む量であれば安心して、お茶を飲んでいただけます。
緑茶、および主な飲料に含まれるカフェイン量
ただし、実は玉露には多くのカフェインが含まれています。100g当たり、160mgとコーヒーより多くのカフェインを含んでいます。高価な玉露をガブ飲みすることはないと思いますが、飲み過ぎには気を付けた方がいいでしょう。
おいしい緑茶のいれ方の基本は、「2~5gの茶葉に、お湯は100~150cc。湯温は40~80度、蒸らし時間は1~3分」です。これを基本に、好みで微調整していくといい。温度を上げれば苦味や渋みが増し、ぬるくいれれば甘味が増します。あまり緑茶を飲みつけていない人は、これら数値の一番低いところをとって、2gの茶葉に、多めのお湯150cc、温度は低めの40度、蒸らし時間は1分でまずは楽しんでみてください。
重要なのは水です。お湯は必ず一度沸騰させましょう。そして、沸騰させた後に、目的の温度まで冷まします。水は、硬水だと薄くなり、軟水だと濃く出るので、硬水の場合は浸出時間を長めにします。
毎日緑茶を飲んでいて、もっとガツンとした味わいでないと物足りないと感じる人は、これとは逆に、5gの茶葉に100ccの湯、湯温は80度、蒸らしは3分で抽出します。
大学に入学してきた学生には必ず緑茶をいれてもらいます。すると、最初のうちは白湯のような薄いお茶をいれます。私がいれたお茶は『渋くて嫌だ』というのです。でも、学生に「毎日、煎茶、玉露、など二種類以上のお茶をいれて飲み比べて、茶葉の種類を当てる」という課題を与えると、1カ月ほどで正しく当てられるようになります。おいしいお茶もいれられるようになります。
実はネズミでも実験をしてみたことがあります。水分として緑茶を与えると、ネズミは「なんだよ」と見向きもせず、えさも食べなくなり体重も落ちます。それでも与え続けると、お茶を飲むようになり、えさも食べるようになって、痩せた体も回復していきます。そうやって飼育しておき、あるとき水と緑茶を同時に出すと、なんとお茶を選んで飲むのです。つまり、お茶のおいしさは学習することにより、後天的に覚えるものだということです。ですから、お茶のおいしさをしみじみ感じるのは、ある一定の年齢を超えてからのように感じます。
ですから、子どもの世代にもどんどん緑茶を飲んでほしいと思います。幼いうちは、甘いものは無条件でおいしいと感じるのですが、苦みや渋みは危険のアラームだと本能的に感じるので、「まずい」と言います。しかし、飲み続けることによっておいしさを理解、獲得していきます。魚のわたやビールの苦み、赤ワインの渋みも後天的に学習するもののようです。
国内で生産される農産物は、残留農薬基準と農薬登録保留基準という2つの基準によって、安全性の確保がなされています。飲んでおいしいと感じられるようなお茶の樹は虫の標的にもなりやすいので、農薬を散布することによって病虫害を避けます。
煎茶のうち、一番茶と呼ばれる新茶は基本的に農薬は使われていません。その年の最初に生育した新芽を摘み採って作られるお茶で、収穫時期は八十八夜と言われる5月上旬(2016年は5月1日)になります。それまでは気温も低く、虫が出ないため農薬を散布する必要がないのです。農薬を使うのは基本的に二番茶以降になります。このときも、農薬散布の量と方法は、他の作物同様、法律によって規定されています。散布された農薬は、防除という役割を果たしたあと、日光による光分解や酸素、水との化学反応による分解、風雨による洗い流し、作物の代謝による分解を受けます。残留性は非常に少ない、と理解いただいていいでしょう。行政機関による無作為抽出、農薬分析調査も行われています。(日経グッデイ等より)
海外に居てると偶にお茶を飲みたくなることがあります。ですから、フィリピンに行く時は緑茶と麦茶を持っていきます。麦茶はカフェインが無いので、フィリピンの子供たちにも安心して飲ませられますよ。