BRICs(ブリックス)、VISTA(ビスタ)、N―11(ネクストイレブン)……。市場関係者は成長期待の強い新興国群を表す略称を数多く編み出してきたが、最近浮上してきたニューフェースが「新たなるVIP」だ。ベトナム、インド、フィリピンの頭文字を取った言葉で、好調な内需や中国への依存度の低さが共通の特徴。先進国や中国の景気が減速して投資先の選択肢が狭まるなか、海外に影響されにくい「ディフェンシブ国」に期待せざるをえなくなっているとの皮肉な見立てもある。
「業績拡大は個人消費の強さのおかげだ。我々は今年も成長を続けられる」。2月下旬の決算発表。フィリピンの不動産大手で大型ショッピングモールを展開するSMプライム・ホールディングスのハンス・シー社長のコメントは自信に満ちていた。
SMプライムが運営するスーパーマーケットや商業施設には夜半になっても買い物客がひっきりなしに訪れる。2015年12月期の純利益は283億ペソと前の期に比べて54%も増えた。2016年も新たに6カ所のモールを開設する計画だ。
乳業大手のベトナム・デイリー・プロダクツ(ビナミルク)、不動産大手のビングループ――。ベトナムでも内需型の好業績企業が次々に勃興している。同国の大手外資系運用会社、ドラゴン・キャピタルのビル・ストゥープス最高投資責任者は「インフレ抑制など経済政策が奏功し、教育水準も高いベトナム経済は加速し続けるだろう」と話す。
各国の代表的な株価指数はVN指数(ベトナム)、SENSEX指数(インド)、フィリピン総合指数。3指数はここ3年で平均2割近く上昇した。アジアを含めて世界経済が全体に減速した最近1年に限っても、ベトナムのビナミルクの株価は5割超、ビングループは2割超も上昇。フィリピンのSMプライムの株価も2割近く上がった。
ちなみに、この「新VIP」という言葉。オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)シンガポールのアジア太平洋地域担当チーフエコノミスト、グレン・マグワイヤ氏が昨年ベトナムで開いた投資家向け説明会で使ったのが最初だ。マグワイヤ氏は「強い内需を持つ3カ国は、貿易不振で弱っているほかの新興国とは違う」と強調する。
インドが約13億、フィリピンやベトナムもそれぞれ約1億の人口を抱え、国連はこの3カ国の人口が今後数十年にわたって増加すると予測する。国民の平均年齢もフィリピンが24歳、インドが26歳、ベトナムが30歳と、46歳の日本や38歳の米国などと比べて大幅に若く、中間層の増加による内需拡大に期待が集まる。
経済が減速している中国への依存度の低さもポイントだ。みずほ総合研究所によると、3カ国の輸出に占める中国向けの割合は1割前後にとどまる。特に中東や欧州と経済的なつながりが深いインドの中国向け比率は4%程度と極端に低い。日本や韓国などが2割前後にのぼるのとは対照的だ。三井住友銀行シンガポールの岡川聡シニアグローバルマーケッツ・アナリストは「中国経済が減速するなか、中国への依存度が低いとみなされた国の株式に買いが集まりやすい」と話す。
VIPがそろって資源大国ではない点も、現在の環境ではプラスに働いている。原油安が経済を直撃したブラジルやロシアとの大きな違いだ。特にインドやフィリピンは原油の輸入依存度が高く、2014年後半からの急速な原油価格の下落が物価上昇を抑制し、個人消費を支えた。金融緩和の余地も広がっており、インド準備銀行(中央銀行)は昨年に4回、今年も1回利下げした。
もっとも、株式市場の栄枯盛衰は激しい。盛り上がった市場の期待も、時代の流れによっては、うたかたのようにはかなく消えてしまう。かつてBRICsを提唱した米ゴールドマン・サックス・グループは昨年9月、関連ファンドをほかの新興市場株式ファンドに統合することを米証券取引委員会に報告。今では社内でこの言葉を使う人はほとんどいないという。
かつて「旧VIP」の一角と呼ばれた資源国のインドネシアも、商品相場の急落を受けて新VIPの枠組みからは抜け落ちた。世界経済が減速するなかで浮かび上がった新VIP。市場の期待を持続させるためには、内需ばかりに頼る「内弁慶」にとどまらず、投資規制の緩和や不足しているインフラの整備など未来を見据えた次の一手を急ぐ必要もある。(日経新聞等より)
成長期待の強い新興国であるフィリピン。OFWの送金で貿易収支の改善や好調な内需が続く今のうちに、インフラ整備を行い海外からの投資を呼び易くして、発展して欲しいものだ。