認知症患者の約60%はアルツハイマー型認知症で、約20%は脳血管性の認知症といわれている。近年、アルツハイマー型認知症の患者の6割が遺伝的要因を持っていることが分かってきた。特に、アポリポたんぱくE(以下「ApoE」、読みは「アポイー」)の対立遺伝子のひとつ、ApoEε4(以下、ApoE4)を持っている人の発症率が高いことが分かっているという。国立長寿医療研究センター理事長・総長の鳥羽研二さんに話を聞いた。(アポリポたんぱくは、血液中のコレステロールや脂肪の運搬にかかわるたんぱくの一つで、それを決める遺伝子にε2,3,4がある)
認知症で最も多いアルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドベータと呼ばれる異常なたんぱく質がたまることが原因の一つとされているが、アミロイドベータが蓄積する原因については確かなことはまだ分かっていない。
しかし、アルツハイマー型認知症の発症には加齢や遺伝のほか、糖尿病や高血圧などの生活習慣病が関わっていることがこれまでの研究から分かっている。
また、遺伝要因の中でもApoEの対立遺伝子ε4(以下、ApoE4)が大きく関与していることが分かってきた。
「ApoE遺伝子には、ApoE2、ApoE3、ApoE4というタイプがありますが、中でもApoE4を持っている人はアルツハイマー型認知症を早く発症しやすいことが分かっています」と鳥羽さん。ちなみに、ApoE4を持っているかどうかは遺伝子検査で調べることができるとのこと。
鳥羽さんによればApoE4を持っている人は平均70歳代でアルツハイマー型認知症を発症するという。また、この遺伝子を持っている人は、生活習慣の改善など、一般的に良いと言われている認知症の予防法が効きにくい。例えば、少量であれば認知症予防になるとされるアルコールも、ApoE4を持っている場合は、効果がないか逆効果の可能性もあるのだという。
「アルツハイマー型認知症の患者さんで、ApoE遺伝子を持っている人は6割くらいいるといわれています。つまり、アルツハイマー型認知症になりやすい人で、食事や運動などの生活習慣の改善で、発症を予防できる可能性のある人は、3分の1程度ということになります」と鳥羽さんはいう。
「ApoE4遺伝子を持っている人は平均70歳代でアルツハイマー型認知症を発症するとされていますが、これは平均年齢なので、実際には60歳で発症する人もいれば、90歳で発症する人もいます」と鳥羽さん。この差がどうして起こるのかは、今はまだ分かっていないが、将来、それが分かれば予防策につながる可能性は高いという。
また、人によっては、脳にアルツハイマー病特有の変化が表れても、認知機能が低下しない場合もあると鳥羽さんは話す。
「実は興味深い研究報告があります。それは、1986年から始まったアメリカのノートルダム教育修道女会のシスター678人を対象にしたナン・スタディです。食事や日々の生活がほぼ同じ修道女たちの亡くなった後の脳を解剖したところ、60人の脳にアミロイドベータの蓄積などアルツハイマー病の所見がみられたのですが、そのうち4分の1の人は生前、認知機能に異常がなかったのです」と鳥羽さん。
つまり、遺伝的な要因を持っていて、脳にアルツハイマー型認知症特有の所見が出ていたとしても、認知機能が衰える人と、衰えない人がいるということが分かってきたのである。ということは、遺伝的な要因として、ApoE4を持っていて、アルツハイマー型認知症が進行したとしても、何らかの方法で、認知機能の低下を遅らせることができる可能性があるともいえる。ナン・スタディでは、若いころに知的な文章を読んだり書いたりした人のほうが、認知機能の低下が少なかったという。
もう一つ留意しておきたいのが、加齢とともに誰でも脳血管障害の危険性が高くなるということだ。アルツハイマー病に脳血管障害が加わると、認知機能の低下が著しく進行する可能性がある。その意味で、脳血管障害などの予防はとても大切だ。
「実はApoE4は動脈硬化の危険因子でもあるんです。もともと脳というのは、一部が損なわれても、他の部位が失われた部位の機能を補う働きをします。ですが、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞を起こすと、アルツハイマー型認知症の人の場合、残された脳の機能をさらに低下させる可能性もあるんです。ですから、脳血管障害を起こさないためにも、生活習慣病の予防はとても大切なんです」と鳥羽さんは話す。(日経ウッデイ等より)
アルツハイマー型認知症になり易い人で、食事や運動などの生活習慣の改善で発症を予防できる可能性が3分の1あり、食事や運動の大切さがあるようだ。
それに、今後も危険因子の解明を期待したいものだ。