財務省は介護保険料を支払った年金受給者の所得税の負担を減らす仕組みを拡充する検討に入る。年金で生活する主婦らで、介護保険料を支払った場合に生じるはずの控除分が反映されていないケースがあるためだ。年1万円ほどの負担減になる世帯もあるという。高齢の低所得層の家計の下支えとなりそうだ。
財務省は今春から本格的に制度改正を検討する。その後、与党との議論を踏まえ2017年度税制改正に盛り込む考え。2017年度にも適用を始める。数十万から数百万世帯に影響するとみられる。
介護保険料は年金を受け取る65歳以上の人も支払う仕組み。支払った分は、課税所得の対象外となるため、本来は所得税の負担が減る。
現在、この対象から外れているのが、年金に対する税制控除の一種である「公的年金等控除」を受けると、課税所得がゼロとなる層だ。具体的には年金収入が年120万円以下の人などだ。課税所得がゼロとみなされるため、所得税の支払いは免除されるが、所得があった場合に適用されるはずの控除が受けられなくなっている。取りはぐれている人の大半は現役時代に専業主婦だった層だ。
こうした主婦らに対し、所得のある夫や親族の所得税を減らせるようにするのが見直しの狙い。年金収入が158万円以下の人などを対象に、生計を共にしている人に、介護保険料の控除分を移せるようにする。
65歳以上の2015年度の全国平均の介護保険料は月5,514円で年間では約6万6千円になる。例えば、所得税の税率が10%の人の場合は、年間で約6,600円の税負担が減る計算だ。
社会保険料のなかでは、介護保険料だけが所得から控除できていない人がいる状況が続いていた。「本来受けられるはずの負担軽減策が適用されないのはおかしい」との不満の声が全国の税務署に寄せられていた。財務省は見直しで、長年くすぶっていた税の不公平感を解消する。年金を受け取る高齢世帯の収入も増えることになる。
ただ政府は今後の所得税改革の方向性として、高所得の高齢者の負担を増やし、低所得の若年層の負担を減らす所得の再分配を掲げている。年金受給者の税負担を減らす見直しに対し、与党からは慎重論も出そうだ。
2016年度の公的年金支給額は据え置きになる見通しだ。厚生年金を受け取る夫婦2人のモデル世帯では、2015年度と同じ22万1,507円を見込む。消費者物価の伸び悩みで年金額の伸びを物価(賃金)の上昇分よりも抑える「マクロ経済スライド」を完全実施しない公算が大きいためだ。
厚生労働省は1月下旬に公的年金の支給額を発表する。年金額を決める基準は消費者物価だ。今年1~10月の物価は単純平均で前年同期比0.9%上昇した。
原則として物価に連動させて年金額を増やす仕組みだが、現役世代の負担が増えすぎないように1%程度、調整(切り下げ)する条件がある。物価上昇率が調整幅を上回らなければ増額しないため、2016年度は据え置く見通しになった。
年金額はマクロ経済スライドや消費者物価の伸び悩みを見れば、今後もそう増えない。このためにも、年金世帯の細やかな税負担を減らす見直しはするべきだろうと思う。ただ、長年会社等に勤めていた厚生年金加入者には、殆ど関係が無いのは残念だ。