海外に行くと、今では本当の秘境でない限り現地には、「日本食レストラン」があります。中には日本人が経営し、なかなかおいしいお店もあります。でも、多くは日本人からすると「なんだか変」という料理が少なくありません。そう、味に何かが足りないのです。
日本人以外が経営している日本食レストランに共通して欠けているもの、それは「だし」です。だしが効いていない。海外にはだしの文化がないので当たり前といえば当たり前です。
日本食の最も重要な要素の1つは、実は、この「だし」。グルタミン酸だけではなく、イノシン酸やグアニル酸などが複合したアミノ酸や核酸の味が、日本食を演出します。日本食が比較的素朴な感じなのは、このだしだけで十分に味わいがあるからだと思っています。
寿司でもこのだしと共通するうま味を、ネタを寝かせるという技によって生み出しています。多くがアミノ酸類や核酸類の分解によって生じたうま味成分です。
だしにはいろいろな種類があって、魚の節によるもの(イノシン酸)、昆布(グルタミン酸)、干しシイタケ(グアニル酸)がメーンのもの。昆布のうま味成分は通常1年の促成栽培では十分に含まれないため、2年かけたものが「だし用」として珍重されます。確かに、2年ものの昆布を料理に使うと、味にぐっと深みが出ます。
昆布にもいろいろあって、真昆布、利尻昆布、羅臼昆布(エナガオニコンブ)、日高昆布(ミツイシコンブ)などがあり、それぞれだしの味が違っています。なお昆布には人体に必要なヨウ素を多く含んでおり、中国では日本から輸出した養殖技術で多くの昆布が生産され、中国内陸部の人々のヨウ素不足を解消することに役立っているようです。(主としてはアルギン酸の原料用に用いられています)
魚の節によるものといえば、まずかつお節。関西系のだしは、昆布とかつお節でおなじみの味ですね。
イノシン酸とグルタミン酸といった異なる系統のだしを混ぜると相乗効果が出ることは古くから知られています。これが、日本の味をかたちづくっているのでしょう。
九州では、ちょっと違いかつお節ではなく、ムロアジ節やサバ節などと昆布が組み合わさっただしです。魚系の非常に強い香りとうま味が特徴で、関西系のだしに慣れていると、驚くほどに違いがあることがわかります。
どちらもおいしいのには違いはありませんが、全く別の味なので九州に行くことがあればぜひ福岡県のうどんを食べてほしいと思います。しかもうどんそのものも太くてやわらかく、しかし粘りとコシはあるという不思議な食感でおいしいです。
キノコ系の中でも干しシイタケがだし用としては代表的です、エノキダケやシメジも強いだしが出ます。みそ汁にエノキダケを少し加えるだけで、味が豊かになるのでおすすめです。
このように多種多様なだしは日本食そのものの味だと思います。海外で日本食がより広まっていくためには、こういった部分から本当のおいしさを伝えないといけないのでしょうね。
実際には、あまり正しく伝わっていないような気がします。それこそ、みその味しかしないみそ汁や、醤油の味しかしないうどんが、海外で日本食として広まってしまい、あんまりおいししくないなあと思われるのは心外です。海外市場にある日本食店は、まずだしの基本を押さえるのが必要ですね。
海外でも日本食材を扱う店が増えて来ているので、滞在先で日本料理を食べることができ、しかも現地のレストランよりうまくできるのですが、日本食レストランもだしをうまく使って、よりうまいものを造って欲しいですね。