フィリピン等外国に居ていると、日本食が食べたくなるときがあります。一回の消費量が少ないものや、保存のきくものは日本から持って行ったりもします。最も現地では少し高いですが、大概のものは買うことができます。
そこで、日持ちのしない肉を使ったカレーやビーフシチューが食べたくなった場合です。それは現地で買うのですが、なかなか柔らかい肉がありません。肉は、口の中でとろけるように軟らかいほうがいい。できれば、圧力鍋を使わなくても、短い時間で、日本で言う特売品のかたまり肉でもおいしく仕上がる方法があればと、いろいろ調べてみました。
例えば、ビーフシチューを料理本で見た有名シェフのレシピ通りに作ることにしました。最初は買った牛肉をそのまま使う。約4cmの角切りにし、フライパンで焼き目を付けて、タマネギ、ニンジン、トマトなどの野菜と一緒に約2時間煮込み、ソースを加えて味を調えて……。煮込むだけでは 予想通りの硬さでした。
見た目はおいしそうなシチューができたが、主役の肉が予想通り、硬い。ナイフは力を入れないと動かない。やっと切れて口に運んでもゴムをかむような感覚。歯の間には繊維が挟まり、ソースを味わうどころではなかった。
さて、この肉を軟らかくする方法は。料理本やネットの料理サイトなどで調べてみると、多かったのはいろいろな食材に漬け込んでから煮込む方法だった。紹介されているのは赤ワイン、ヨーグルト、キウイ、パイナップル。この4つを全部試してみることにした。
赤ワインとプレーンヨーグルトはそのまま、キウイとパイナップルは角切りにして、それぞれ肉が隠れる程度の量に漬け、冷蔵庫で一晩寝かせる。そして翌日、同じ作り方で煮込んでみた。かみ応えさえあった肉が軟らかくなるものか。
明らかに軟らかくなったと実感したのはキウイに漬けた肉。あの硬さがウソのようにフォークでもほぐれる。ナイフでは3回半ぐらいで切れた。キウイも少し一緒に煮込んだのでほんのり甘く、子どもも喜びそうな味わい。同じ果物のパイナップルに漬けた肉も、軟らかさ、味ともにキウイと似ていた。
ヨーグルトに漬けた肉も、キウイほどではないが確実に軟らかくなった。味の深みならヨーグルトに軍配を上げたい。マイルドな中にさわやかさを感じ、食が進む。インドの伝統料理、タンドリーチキンはなぜヨーグルトに漬け込むのか、少しわかった気がした。
赤ワインに漬けた肉はあまり軟らかくならなかった。よくレシピに登場するのに、なぜだろう。実験結果を携えて、専門家に聞いてみたら、「赤ワインに含まれるタンニンは、肉の臭みを消し、風味を良くするんです。軟らかくする効果も若干あるが、それを生かすには「ワインに酢、油、タマネギを調合して一緒に漬けるとさらに効果的」だということでした。
どんな動物の肉でも、お酢やヨーグルトなど適度な酸性の食材に浸すと、「肉が本来持つ酵素の活動が活発化し、繊維がほぐれ、保水力が増す」(ミツカン広報部)。だからジューシーで軟らかくなるそうだ。ただ、酸性が強すぎると表面が白く変質してしまうので、お酢にワインや油を混ぜるのがポイントのようだ。
話を聞いて確かめたくなり、もう一度シチューを作ることにした。肉を漬けたのは赤ワインにお酢、タマネギを混ぜたもの。それを煮込むと、ほろりと軟らかく、ふんわりワインの香りのする上品な仕上がりになった。
タマネギを混ぜたのは「キウイと同じようにたんぱく質を分解する酵素が含まれている」からで、お酢が肉の内側、タマネギの酵素が外側から肉に作用したようだ。
このたんぱく質分解酵素はパイナップル、パパイア、メロンなど生の果物に含まれている。ならば最後にと、全部の方法を合わせてみた。赤ワイン、酢、タマネギの黄金トリオに、甘いキウイ、ヨーグルトを混ぜる。この組み合わせに肉を漬けて煮込むと、ほろほろと崩れそうな軟らかさになった。(日経新聞等より)
カレーやシチューは一晩寝かせると美味しくなるのは、素材の成分が一度スープに溶け出し、混然一体となった旨みを再び食材が吸収するからで、鍋の中のチームワークで味が決まるそうです。フィリピンで手に入りそうなものも多いので、いろいろ試されたら良いと思います。
余談だが、フィリピンで肉を買うとき、1㎏当たりの値段は安いが、骨付きが多い。「骨なんか食べないので要らないのに」と何時も思ってしまう。(笑)