ねんきん定期便は毎年、誕生月にハガキなどで送られてくる
日本年金機構から届く「ねんきん定期便」のデザインが変更された。受給を遅らせると年金額が増えることを示したのが大きな特徴。一方で相変わらず載っていない情報もあり、将来の年金額の全体を知るには不十分だ。記載内容の見方と、それを今後にどう生かすか知っておきたい。
「70歳まで遅らせると金額が42%も増えるんだ」。届いたねんきん定期便を開いた55歳の女性はつぶやいた。短大卒業後会社に勤めて30代のときに退社し、以後は専業主婦を続けた。定期便に記載された年金の見込み額は年100万円に遠く及ばず「ずいぶん少ない。遅らせるのもありかな……」と話す。
ねんきん定期便は厚生年金や国民年金の加入期間や受給額の目安が分かる通知書だ(図A)。毎年、誕生月にハガキなどで送られてくる。その記載内容が4月から一部変わり、追加された部分がある。
繰り下げ受給についての説明だ。年金はもらい始める年齢を通常の65歳より遅らせる(繰り下げる)と毎年の年金額が増える。新しい定期便は、70歳まで遅らせた場合に最大42%増額されることを図を用いて説明している(写真)。
受給開始を遅らせた場合のイメージ図が「ねんきん定期便」に加わった
繰り下げを選択するとしばらくは無年金となるが、働いて収入を稼ぐなどしてしのげればその後、増額の恩恵を受けられる。シニア就労時代にマッチするとして政府は、繰り下げ可能な上限年齢を70歳超へ引き上げることを検討中だ。
年金制度では受給開始を65歳より早めることも可能だ。定期便には60歳まで選択可能な点は書かれているが、その場合に年金額が最大30%減ることには触れていない。みずほ総合研究所の堀江奈保子主席研究員は「繰り下げで年金額が増える点ばかり示すのはバランスを欠く」と指摘する。
受給を遅らせる繰り下げを選んだ場合、「人によってはデメリットが生じる可能性があるが定期便はその点に触れていないので注意したい」と社会保険労務士の永山悦子氏は話す。
例えば年下の配偶者がいると年額約39万円が厚生年金に上乗せされることが多く配偶者が65歳になるまで続く。加給年金という。だが繰り下げるとその期間中、加給年金は出なくなる。繰り下げの結果、年金収入が増えて税・社会保険料負担が増す場合もある。
日本年金機構は加入者の節目の年齢(35、45、59歳)に年金記録の詳細版を封書で送る。繰り下げに伴う注意点は説明しているが、イメージ図で繰り下げのメリットを強調するデザインは通常の定期便と同様だ。
定期便には加入者が知りたいはずなのに載っていない情報もある。代表例が前述した年約39万円の加給年金だ。配偶者が年下で条件を将来満たしそうな人は加味して考えよう。その配偶者が65歳になると加給年金に代わって振替加算という上乗せが付くこともある。生年月日によるが配偶者に年約1万5,000~22万円が生涯支給される。この振替加算も載っていない。
ねんきん定期便は夫婦であっても別々に送られてくる。社会保険労務士の原佳奈子氏は「世帯全体の年金についてより正確に把握したい場合は年金事務所に確認したい」と話す。
50歳未満の人に届く定期便には、50歳以上向けとは異なり、年金の「見込み額」は載っていないことに気をつけよう。記載されている「年金額」はあくまで過去の保険料納付の実績に基づいて計算した額で、今後の見込みは含まない。
予想を加味して年金額を知りたいときに役立つのが図B(下図)の計算式だ。今後の給与水準と勤務する期間を想定して式にあてはめることで目安額がわかる。
例えば、現在40歳の人があと20年(240カ月)、月額50万円で働くと仮定して計算すると、基礎年金と厚生年金の合計額は約105万円となる。これを定期便に書かれた過去実績分の年金額に加算すると65歳から受け取る金額になる。
加入者が年金額の目安を知る方法としては日本年金機構の「ねんきんネット」もある(図C)。様々な条件で試算する機能があり、例えば「70歳まで長く働く」「受給開始は67歳にする」といった選択を反映できる。社会保険労務士の中村薫氏は「働き方などによって年金額がどう変わるかを把握でき、人生設計に生かせる」と言う。
ねんきんネットの利用には登録の手続きが必要だ。その際入力する「基礎年金番号」はねんきん定期便には載っていないので、年金手帳などで確認する必要がある。会社員の場合は勤務先が管理している場合が多いことも覚えておこう。
ログインに必要なユーザーIDは定期便に書かれたアクセスキー(17桁の番号)を使えばネット上で取得できるが、アクセスキーの有効期間は到着後3カ月。過ぎた場合はネット上で申請してIDを郵送してもらう。(日経スタイル等より)
年金受給者は、繰上げ受給者は34%、繰下げ受給者は1%台。年金定期便で繰下げ受給を奨励しても、厚生年金の加給年金のデメリットが改善されない以上、繰下げ受給者は増えないと思う。
年金は人それぞれ違うが、夫婦が受給する場合は、夫が65歳からで余裕があれば妻の受給を繰り下げると言う状況のようだ。