今年3月に始まった、海外渡航者からのはしか(麻疹)の流行は記憶に新しい。楽しいはずの海外旅行で思わぬ感染症にかからないようにするため、事前の準備と現地での対策を知っておこう。
外国人旅行者から感染を繰り返し、沖縄から感染が広がったはしか。日本は2015年以降、国内土着のウイルスによるはしかの発生が3年以上ない「排除状態」にあるが「国外にはそうではない地域が少なくない。はしかに限らず、海外旅行の際は様々な感染症への注意が必要だ」と川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は指摘する。
国外の旅先で感染症にならないために、旅行前と現地での対策が欠かせない。旅行前に重要なのがワクチン接種だ。「はしかや風疹、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)などは、かかったことがなく接種回数が1回以下の人は受けた方がいい」とトラベルクリニック新横浜(横浜市)の古賀才博院長は強調する。はしかは感染力が強く、広がりやすい。妊娠初期の女性が風疹に感染すると、胎児が先天性の障害を起こす可能性が高くなる。
岡部所長によると「はしかは20~40代、風疹は20~40代と1979年4月1日以前に生まれた男性のワクチン接種率が低い。おたふくかぜは任意接種のため、受けていない人もいる」。母子手帳で接種歴を確認しよう。「接種歴が不明の場合、抗体検査もできるが時間や費用がかかるので、念のため接種するとよい」
渡航先で流行している感染症のワクチン接種も大切だ。狂犬病やA型肝炎、腸チフスのワクチンなどだ。厚生労働省検疫所のサイト「FORTH」(https://www.forth.go.jp/index.html)などが発信する地域別の感染症流行情報を確認しよう。
ワクチンの効果を十分に得るため、接種は渡航の2~4週間前までに済ませたい。「複数のワクチンを接種する場合、種類によってきまりがある。渡航外来で早めに相談を」と古賀院長は話す。
マラリアが流行する熱帯・亜熱帯地域に行く場合は、予防薬を処方してもらい、渡航前から帰国後まで服用する。重症化すれば死に至ることもあるので準備が必要だ。
ワクチンや予防薬での対策が難しい感染症は、滞在先での留意が必要だ。ジカ熱やデング熱、ダニ媒介性脳炎といった蚊やダニが媒介する感染症は、防虫対策が必須になる。現地では長袖や長ズボンで皮膚の露出を避け、虫よけ薬や蚊帳などを使う。
虫よけ薬と日焼け止めと一緒に使う際は「虫よけ成分の蒸散を妨げないために、まず日焼け止めを塗り、上から虫よけを使って」と古賀院長は勧める。虫よけ成分のディートの濃度が高い虫よけ薬ほど、効果が長く続く。ただし、子供の場合は1日に使える回数が限られるほか、6カ月未満の乳児には使えない。
旅行先では生ものや生水を口にしないことや、むやみに動物に触らないことも大切。「狂犬病ウイルスは、犬に限らず、ほ乳類全てが持っている可能性がある。子供連れの場合は特に、目を離さないように注意する」(岡部所長)
旅行中や帰国後に病気になった場合には、速やかに受診する。「渡航先で受診する時には、接種したワクチンの申告を」(古賀院長)。帰国後の受診時は、渡航先や日程、どんな症状がいつ出たかを医師に伝えよう。
近年は日本から世界各国へ渡航する人が増え、海外からも多くの外国人旅行者が日本を訪れるようになっている。海外渡航がより身近になった今、感染症から身を守るための情報を知っておくことが必要ですね。
特に初めて訪れる国に行く場合は、事前に必要な準備や現地での対策、帰国後の体調不良が現れた場合の対応について心得ておきたいものです。