まだまだ男盛りの中高年に容赦なく襲いかかる体の悩み。医者に相談する勇気も出ずに、1人でもんもんと悩む人も多いことだろう。そんな人に言えない男のお悩みの数々を著名な医師に尋ね、その原因と対処法をコミカルで分かりやすく解き明かす。楽しく学んで、若かりし日の輝いていた自分を取り戻そう。
地方公務員として都市開発の仕事に携わっている38歳。これまで大きな病気をしたことはなく、健康診断の結果も問題なし。だけど、秘かに体に爆弾を抱えている。それは腰だ。5年前、仕事納めで事務所の片付けをしていたときのこと。地図や図面がぎっしり詰まった段ボール箱を持ち上げようとして、腰に激痛が走った。いわゆる、ぎっくり腰で、そのまま寝たきりの年末年始になってしまった。しかも、それ以来、秋口から師走にかけて腰を痛めることが増えた。寒さで体が縮こまった日にゴミを拾おうとしたときや、風邪をひいてクシャミをしただけで、ぎっくり腰を再発したこともある。誰か、クセになってしまったぎっくり腰の対策法を教えて。
(イラスト:川崎タカオ)
重い物を持ち上げようとした拍子に、突然腰に激痛が走り、ひどいときには全く歩けなくなる。ベッドで横になっていても、少し動くだけで痛いので、寝返りすら打てない。典型的な「ぎっくり腰」の症状である。
正式な病名は急性腰痛症。背中側の骨盤の上には、無数の筋肉が層のように重なり、上半身を支えている。その筋肉や筋膜になんらかの障害(筋性腰痛症)が起きて発症することが多いが、関節の捻挫や椎間板ヘルニアが原因のこともある。ただ、病院で調べてもどこに原因があるか詳しいことは分からないことが多い上、医師からはざっくり「ぎっくり腰でしょう」と言われることが多い。急性期の対処法としては、痛みを抑える貼り薬や飲み薬を処方されることが一般的で、しばらく安静にしていると数日から数週間で痛みは消失する。
では、こうしたぎっくり腰を繰り返すようになるのはなぜだろう。また、どうしたら予防できるのか。仲野整體東京青山の仲野孝明院長は「最近、『座りすぎ』による健康リスクについて語られることが多いが、実は『ぎっくり腰』になるのも座っている時間が長い人が多い。しかも、多くは正しい座り方ができていない」と話す。
例えば、1日の間で座っている時間が長いのはオフィスワーカー。そのツケは徐々にやってくる。20代のうちは問題はなくても、30代、40代になると、間違った座り方により体幹のバランスが崩れ、膝、腰、肩、首と体のさまざまな部位に不調を来すようになるのだという。ぎっくり腰は、いわばこうした体の異変のサインの一つ。「ぎっくり腰を毎年繰り返すような人は、やがて慢性腰痛を訴えるようになることが多い」(仲野院長)というから要注意だ。
ぎっくり腰や慢性腰痛の原因にもなる間違った座り方とはどんな座り方なのか。私たちの体は、胴体の前後左右にある体幹の筋肉群(インナーマッスル)をすべて使い、より安定した「筒」で体を支えようとしている。このバランスを崩さないように歩いたり、座ったりするのが正しい動作と姿勢だ。座る場合は、イスに深く腰掛け、骨盤を立てて、背中が丸まらないように真っ直ぐ伸ばした状態がベストバランスといえる。
これに対して仲野院長は「オフィスワーカーで典型的なのは、イスに浅めに腰掛け、背もたれに寄り掛かる、ダラッとした『楽な座り方』。骨盤は後ろに倒れ、背骨は丸く湾曲している」と解説する。このとき、背中の筋肉は伸びて緊張しているが、体幹のお腹側の筋肉は緩んでいる状態。例えば、この状態でおへその下あたりを指でグイと押して見てほしい。お腹の筋肉が緩んだ状態で、ほとんど力が入っていないことが分かる。
こうした間違った座り方によって、お腹側のインナーマッスルが「さぼった」状態を続けていると、やがて体幹のバランスが崩れ、それがさまざまな不調の原因になるという。
ぎっくり腰もその一つ。「体幹のお腹側が緩んだままの状態では、動作による力の多くが背中側にかかることになる。背中の筋肉には負荷がかかりパンパンに張った状態のまま、床に置いてある物を持ち上げようとすると、すべての力は背中に加わる。その結果、背中の筋肉群や関節に障害が起きてぎっくり腰になる」(仲野院長)。ぎっくり腰の原因は、実は腰ではなくお腹にあったのだ。
ぎっくり腰を予防するためには、腹筋をしっかり意識し、体幹の筋肉をバランスよく使った動作を心がけることが大切だ。例えば、ぎっくり腰を起こす原因で最も多いのは、年末の大掃除などで重い物を持ち上げようとする動作だ。下図のなかで正しい持ち上げ方はどれだろうか。
どれが正しい持ち上げ方だろうか?
Aのように、足を伸ばし、上半身だけ使って持ち上げようとすると、腰痛を起こす可能性が高い。Bも、背中が丸く曲がって、腹筋に力をこめにくいので、腰を痛めやすい。Cは、腰を落とし、骨盤を立て、背中を真っ直ぐに伸ばすことで、腹筋にも十分な力が加わり、腰を傷めにくい。
正しい持ち上げ方はCだ。腰を落とし、骨盤を立て、背中を真っ直ぐに伸ばすことで、腹筋にも十分な力が加わり、体全体で持ち上げ動作を行うことができる。物を持ち上げる動作は、日常生活やスポーツで頻繁に行うので、正しい方法を知っておきたい。
ぎっくり腰を予防するためには、普段から体幹全体を上手に使う習慣を身につけておくことも大切だ。それは慢性腰痛、肩こり、首こりなど、さまざまな体の不調の予防にもつながる。体幹トレーニングとしては、バランスボールなど道具を使ったエクササイズやスクワットなどもあるが、仲野院長が「誰もが間違いなくできて、いつでもどこでも気軽に行える」方法として勧めるのが「背伸びのエクササイズ」である。
背伸びのエクササイズ
この背伸びのエクササイズは、仕事の合間などで繰り返すことがお勧めだ。背伸びするだけなら、休憩時間はもちろん、さまざまな用事で席を立ったときなどにでもできるだろう。時間に余裕があるときは、背伸びのエクササイズによって得られた正しい姿勢をキープしたまま、お腹に力を入れるよう意識し、体が上に引っ張られているような感覚でウォーキングをするとより効果的だ。
この動作は、さまざまな動作をする前の準備運動としても有効だ。例えば、重い物を持つ前に背伸びのエクササイズをして、お腹に力が入っていることを十分に意識してから行うと、ぎっくり腰を予防することにつながる。
こうした予防を心掛けていても、ぎっくり腰になってしまったときはどうしたらいいのだろうか。整形外科などを受診すると貼り薬や飲み薬を処方され、しばらく安静にするように告げられる。ただ、これは 安静にすることで早く治るからではなく、動かすと痛いからである。仲野院長は「痛みがあっても歩けるようなら、歩いたり軽いエクササイズをするなど、運動療法を始めた方が回復が早くなる」とアドバイスする。
ぎっくり腰の回復に役立つエクササイズとして主に知られているのが、下図の2つの方法だ。「片膝かかえ」や「両膝かかえ」といったエクササイズだが、両方を試してみて痛みがより和らぐほうを行う。「片膝かかえ」の場合は、抱えないほうの脚を少し曲げると楽になることが多い。
急性腰痛のタイプによっては効果のある軽いエクササイズ
(D)片膝かかえ。(E)両膝抱え。両方を試してみて痛みがより和らぐほうを行う。
また、ぎっくり腰の痛みがあるとき、腰は冷やした方がいいのだろうか。逆に温めた方がいいのだろうか。仲野院長は「腰に手を当てたくないほど痛みが強いときは、冷やした方がいいが、手でさすったりして気持ちがよいときは温めた方がいい」とアドバイスする。
こうしたケアを行ううちに痛みは少しずつ軽減していくが、下記のような場合は整形外科などで相談することを勧めている。
・横になって安静にしていてもズキズキと痛む
・しびれなどの知覚異常がある
・つま先立ちができない
・1カ月以上痛みが続いている
座っている時間の長いオフィスワーカーは、体幹のバランスが悪くなっていることが多い。ぎっくり腰は、いわばそのイエローカードだ。痛みに対処するだけでなく、これを機に自分の「体の使い方」を見直すことが大切だ。(日経グッデイ等より)
酷いギックリ腰の痛みは、やったものしか分からない。階段を登るのも一苦労、立っていてクシャミをすれば腰砕けとなりその場にへたり込む。常日頃から準備体操をして気を付けたいものです。