フィリピンのドゥテルテ大統領の出身地である南部ミンダナオ島のダバオ地域が投資に沸いている。ドゥテルテ氏がかつて市長を務めて治安を改善し、投資環境が好転。都市別で最も高い成長を遂げた。首都マニラ、セブに次ぐ第3の都市ダバオがフィリピン経済のけん引役になりつつある。
「デジタル関連サービスの基盤を整備し、経済発展を押し上げたい」。フィリピンの通信大手PLDTのエリック・アルベルト最高販売責任者は2月、ダバオ市でデータセンターを開設し、こう強調した。ダバオ市があるミンダナオ島に同社がデータセンターを設置するのは初めて。需要が拡大するレンタルサーバーやバックアップ用拠点としての活用を見込む。光ファイバーケーブル網の中継拠点も完成させた。
ミンダナオ島の面積は北海道より一回り大きい約10万平方キロメートルで、マニラがある北部のルソン島に次ぐ。人口は2,000万人を超える。その中核都市がダバオ市で、ドゥテルテ氏が1988年から下院議員や副市長を挟んで計7期、20年以上にわたって市長を務めた。自ら率先して犯罪に対峙。殺人や誘拐が日常茶飯事だった凶悪都市を同国一ともいわれる安全な都市に変貌させた。実際に街中を歩くと、のどかな雰囲気を感じ、かつては考えられなかった24時間営業の店やレストランが点在する。
治安の改善を受け、周辺市を含めたダバオ地域の経済は急拡大した。もともと農業が主産業だったが、IT(情報技術)関連などの受託サービス会社が次々に進出。こうしたサービスに適した最新鋭のビルも建てられ、フィリピン最大のIT拠点に成長した。人々の生活が豊かになったことを反映し、商業施設や住宅も急増。同国小売り最大手のSMインベストメンツは大型ショッピングモールを開設し、不動産大手のアヤラ・ランドはビルやモール、コンドミニアムなどが集積した不動産開発を進める。2014年のダバオ地域の経済成長率は主要都市で最高の9.4%となり、国全体の6.2%を大きく上回った。急速な発展で交通渋滞が年々悪化している。
ドゥテルテ氏が昨年5月の大統領選に勝利してからは、一段と投資合戦の様相が強まっている。通信大手のPLDTやグローブ・テレコムはダバオ周辺で携帯電話基地局を増設するなど通信インフラの改善を急ピッチで進めた。フィリピンの通信網は脆弱で、マニラの中心部ですら携帯電話の通話は頻繁に途切れるが、「大統領の地元は投資の優先度が高い」(通信大手)という。
フィリピンとの関係強化を狙う各国の外交の舞台にもなりつつある。1月、安倍晋三首相がダバオを訪問。ドゥテルテ氏の自宅で一緒に朝食をとり、蜜月関係をアピールした。3月には中国の汪洋副首相がダバオでドゥテルテ氏と会談。地元メディアによると、中国はダバオで計画されている全長約23キロの高速道路の事業調査を始めることで、フィリピン政府と合意した。さらに市内のモノレール敷設事業や、2,000キロに及ぶミンダナオ鉄道の建設事業にも関心を示す。フィリピン側は日本にも鉄道事業への協力を求めているもようだ。フィリピンとの外交関係がぎくしゃくしている米国も3月末に、ソン・キム駐比大使がダバオでドゥテルテ氏と面会し、経済関係を強化することで合意した。
もっとも投資は過熱気味との指摘も出ている。電力供給量は全国規模では経済成長に追いついていないものの、ダバオでは発電所が相次ぎ建設されたため、「足元の供給能力はやや過剰で、解消されるまで数年かかるだろう」(フィリピン電力大手アボイティス・パワーのエラモン・アボイティス最高経営責任者)との声もある。
このように、ダバオを始めとしてミンダナオ島が平和を取り戻して発展することは、フィリピンにとって良いことだと思う。
ただ残念なことに、ミンダナオ島では長年、分離・独立を求めるイスラム系反政府勢力が政府との間で紛争を繰り広げて来て和平に向かっての話し合いが進んでいるが、最近はISに忠誠を誓っているとされる「マウテ・グループ」が活動を活発化。度々軍と衝突し、爆弾テロを起こしている。
そのグループは、今月23日もマラウイ市でマウテと軍、警察が交戦。警察官と兵士の計3人が死亡、12人が負傷した。マウテは病院や市庁舎などを占拠し、教会や刑務所に火を付けた。
このことにより、ドゥテルテ大統領は、「国を守るためには戒厳令が必要だ。(治安回復に)強硬に取り組む」と述べて、期限60日の戒厳令を布告した。戒厳令によりミンダナオ島では令状なしで人を拘束できるようになり、警察、軍に強い権限が与えられる見通し。同島東部にはドゥテルテ氏の地元ダバオ市があり、今後の経済発展を見込む途中であり、同氏は早期の治安回復に向け、反政府勢力の掃討作戦を強硬に進める方針のようだが、それをフィリピンのためと期待したい。