フィリピンのドゥテルテ大統領は、環境天然資源省による鉱山28社に対する閉鎖や一時操業停止などの命令を保留にしたと明らかにした。「ロペス環境天然資源相は、問題を引き起こしている」と指摘し、年間数百億ペソを生産する鉱業から得る利益についても考慮すべきとの考えを示した。ただ、鉱業各社の環境破壊が認められる場合、同相の決定を尊重するという。
地元各紙によると、大統領はベンゲット州バギオにあるフィリピン国軍士官学校(PMA)での演説で、「ロペス環境天然資源相を批判しないが、彼女の決定は見直す」と言明。閉山などを命じられた鉱山に対する行政上の救済手段を用意することを明らかにした。
大統領は一方で、ミンダナオやビサヤ地方が採掘産業による人災の被害を受けていると主張し、「環境破壊を引き起こし、国民の利益を搾取する鉱山の取り締まりを強化しているロペス環境天然資源相を支持する」との基本姿勢を示した。閉山などを命じられた企業が実際に環境を破壊している場合、「(大統領として)何もしてやれることはない」と述べた。
同相は2月初旬、金属鉱山28社に対し、閉山や一時操業停止を命じたと発表。先週には75社の未開発の鉱山開発許可を取り消すと公表していた。各社の鉱山が河川流域に位置していることが問題という。
操業停止などを命じられた鉱山各社は、ロペス環境天然資源相の決定が確定すれば、政府を相手取り補償請求訴訟を起こす構えだ。鉱業大手が加盟する業界団体のフィリピン鉱業会議所(COMP)は、各社が求める補償は総額数億米ドル(1億米ドル=約113億円)に達するとの見方を示した。
COMPのアルテミオ・ディシーニ会長は、「政府による鉱業会社との契約破棄は訴訟の始まりを意味する」と指摘。外資を含む鉱山の関係各社は、鉱山開発に巨額の資金を投じてきたためだ。政府がニノイ・アキノ国際空港(NAIA)第3ターミナルの契約を破棄し、巨額の補償金を国際コンソーシアムに支払う羽目になった件の二の舞になると警鐘を鳴らした。
NAIAの問題で政府は、1997年に国際コンソーシアム、フィリピン・インターナショナル・エア・ターミナルズ(PIATCO)に第3ターミナルの建設を発注したが、完成直前の2002年末、当時のアロヨ政権が建設・運営・譲渡(BOT)契約を一方的に破棄。同ターミナルを強制収用した。
PIATCOは不当な強制収用として提訴し、最高裁判所が2016年4月、利息を含め5億米ドル以上の補償金支払いを政府に命じる判決を下した。
ロペス環境天然資源相が2月に入り下した鉱山に対する命令には、ほかの業界からも懸念の声が挙がっている。フィリピン輸出業者連盟(PHILEXPORT)は、鉱山各社に厳罰を科すことが、輸出や国内の雇用、サプライチェーンに打撃を与えることに対して強い懸念を表明した。
セルジオ・オルティスルイス理事長は声明で、政府が標ぼうする持続的で責任ある鉱業は支持するものの、今回のように適正な手続きを無視した鉱業業界の一掃は、「国内外の取引に深刻な打撃を与える」との見解を示した。
差し迫る危機として、全国規模で鉱業や関連産業で大量の失業者が出ることを挙げた。また、ロペス氏の決定の影響は、鉱業会社だけにとどまらず、掘削、建設、輸送、海運、鉱石加工、人材などサプライチェーン全体に及ぶと指摘した。
環境天然資源省は、税金を支払わない、地域社会の開発を支援しないといった違法な鉱山の取り締まりに注力すべきだと強調した。(NNA等より)
フィリピンのロペス環境天然資源相が鉱山28社に閉鎖や一時操業停止を命じた問題をめぐり、政府は対象鉱山の運営について再調査するようだ。ロペス氏が命令を発表した2月2日以降、鉱業や地域経済に与える損失が大きいとして、鉱山会社や財界から批判が噴き出していた。環境天然資源省と財務省とで開催した鉱業調整協議会(MICC)が、3カ月かけて調査を進める。
今回の28社に対する閉山と一時操業停止の措置に伴い、地域経済への打撃が懸念されている。28社によるニッケル生産額は、2015年には全体の51%を占めている。財務省はこのほど、地方自治体が逸失する税収は年間8億2,100万ペソ(約18億4,000万円)超に上るとしている。対象地域は全国の17市町村。特に南スリガオ州のカラスカル、北スリガオ州のタガナアン、ディナガト諸島のトゥバホンの3地域は損失がとくに大きく、歳入の5割以上が失われるという。
フィリピンは鉱物資源が豊富な国。環境に配慮した開発は必要と思うが、必要以上の閉山は社会に混乱を来しているようだ。