アフリカ東部で3月10日、米航空機大手ボーイングの「737MAX」が墜落した事故を受けて、各国の航空会社が同型機の注文を見合わせる動きが広がっている。旅客需要の急拡大を背景に、競合に先駆けて積極投資に踏み切った航空会社ほど、深い傷を負いかねない状況になっている。
現地メディアやロイターなどの報道によれば、インドネシアの格安航空会社(LCC)であるライオン航空は今年納入が予定されていた4機の737MAXの納入を延期し、さらに200機以上ある発注をキャンセルして欧州エアバス製に切り替えることを検討している。ライオン航空は昨年10月、737MAXを墜落事故で失っている。
ベトナムのLCC、ベトジェットエアも自国や世界各国の当局の判断を受け、200機の大規模発注を予定通り進めるかどうか決める方針だという。ガルーダ・インドネシア航空やマレーシア航空もこの動きに同調。アエロフロート・ロシア航空傘下のLCCであるポベーダ航空やサウジアラビアのLCCフライアデルなどにも広がっている。
737MAXは中国に加え、東南・南アジア、南米や中東など新興国の航空会社で重用されてきた。ボーイングの発表によれば、今年2月時点で引き渡された同型機の数は376機で、受注残はその10倍以上の約4,636機もある。
背景には新興国における航空旅客の急増と、それを見込んだLCCの熾烈な競争がある。
インドネシアでは2010年に約220万人だった出国者数が2017年には約890万人に拡大。入国者数も同様に、2018年に1,580万人と2011年比で倍増した。
ベトナムでは隣国の中国から訪問者が押し寄せ、2008年に425万人だった入国者数が2018年は1,550万人に拡大している。
競合に先駆けて需要を取り込もうと、航空各社は時に収益を犠牲にして路線の拡大に急いだ。そこで脚光を浴びたのが、軽量で燃費効率が高いとされる737MAXだった。先を争うように、アジアのLCCが大量発注に踏み切った理由はここにある。
今回の事故は、前のめりで737MAXの確保に走ったLCCの成長戦略に冷や水を浴びせた。ボーイングは3月14日に737MAXの出荷を停止したうえ、各国の航空当局による運行停止命令が解除されるめども立っていない。
路線拡大を続けるにはエアバス機への発注切り替えやリースの活用などが必要になるが、想定外の時間とコストがかる。戦略の転換でもたつけば、その間に新規需要を737MAXの依存度が低い競合に奪われる恐れもある。
既に737MAXを運用している航空会社にとっても打撃は大きい。インドのLCC、スパイスジェットは保有する13機の737MAXを運用できなくなり、主要ルートで大幅な値上げを強いられた。ブルームバーグによると、各航空会社が737MAXを代替機で補うコストは、月間で1機あたり25万ドル(約2,800万円)に上るという。
採算を半ば無視した拡大路線がたたり、アジアの航空業界では経営不振に陥る企業が相次いでいる。タイのLCCノック・エアラインズは5期連続の最終赤字に陥り、インド第2位の航空会社ジェットエアウェイズは、給与や航空機リース料の支払いが遅延するまで追い詰められた。
再編機運が高まる中で発生した737MAXの事故は、航空各社に戦略の練り直しを迫っている。業界地図を一変させる可能性もある。(日経ビジネス等より)
ボーイング社は、737MAXのコックピットの警告機能が同機種の買い手に説明していたように作動しないことを墜落事故の前に認識していたことを明らかにした。
インドネシアの格安航空会社ライオンエアが、墜落事故を起こした後まで、ボーイングはそうした認識を航空会社や米連邦航空局(FAA)と共有していなかったという。事故では1つの迎え角(AOA)センサーが誤った表示を出してソフトウエアが作動し、パイロットが制御不能になるまで機首が下がり続けた。
2つのセンサーが機首と気流の関係について矛盾するデータを示した際、警告灯が作動するはずだった。同社は前世代機の737同様にこのAOA不一致アラートがMAXの標準装備だと航空会社やパイロットに説明していたが、実際はオプションのインジケーターを購入した顧客にだけ作動していたようだ。
警告が作動しなかったことについて、FAAの評価委員会は「低リスク」と判断したが、「ボーイングが運航会社と適宜もしくは事前にコミュニケーションを取っていれば、混乱の低減または回避につながっただろう」とFAAが指摘している。
ボーイングの信頼性は地に落ちたとさえ思われる事故。回復できるのだろうかと心配するほどの事故だ。