職場で騒音にさらされると、血圧やコレステロール値の上昇を招く可能性があることが、米国疾病予防管理センター(CDC)のEllen Kerns氏らの研究で明らかになりました。
騒音は難聴を招くことはよく知られていますが、それだけでなく、騒音と循環器疾患との関係も懸念されています。騒音はストレスを引き起こし、ストレスに対する自律神経や内分泌系の反応が、循環器疾患の危険因子である血圧や血中コレステロールの上昇を引き起こすのではないか、というのがその理由です。
そこで著者らは、職場の騒音と高血圧、高コレステロール、冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)または脳卒中との関係を調べることにしました。
分析対象にしたのは、さまざまな職種に従事する18歳以上の男女です。両耳または片耳が高度難聴(ろう)の人(騒音が原因で高度難聴になる可能性は非常に低い)や、聴力低下の原因が、妊娠中の母親が感染症にかかったこと、生後の感染症、遺伝性の病気、脳腫瘍である人は、分析から除外しました。
条件を満たした2万2,906人の労働者(男女比はほぼ半々、62%が白人、55%が大卒)について、職場の騒音の有無や健康状態を詳しく分析した結果、12%が難聴で、24%に高血圧、28%にコレステロール値の上昇が認められました。また、4%が冠動脈疾患または脳卒中を経験していました。
「騒音あり」の基準は、以下としました。
【騒音あり】:1日に4時間以上、非常に大きな音(1mほど離れた場所にいる人と会話するにも大声で叫ばないと聞こえないレベル)、または大きな音(大声で話さないと聞こえないレベル)にさらされた日が週に数日以上あった人
【騒音なし】:上記に該当しない人
全体の25%(4人に1人)が、「騒音あり」に該当する状況を経験したことがあり、14%は過去12カ月間にそうした経験があったと回答しました。
業種別にみると、騒音にさらされる可能性が高かったのは、鉱業(61%)、建設業(51%)、製造業(47%)、電力などの公益事業(43%)などに従事する人でした。
難聴者の割合が最低だったのは金融業/保険業の人だったため、この集団を参照にしたところ、鉱業に従事している人の難聴リスクは2.50倍、公益事業は1.94倍、製造業は1.72倍でした。
難聴のリスクは騒音の程度が上昇するにつれて高くなっていました。また、「騒音あり」の環境で働いていた人たちに占める高血圧患者の割合は、「騒音なし」の環境で働いていた人たちの1.16倍で、同様にコレステロール上昇者の割合も1.10倍になっていました。一方で、冠動脈疾患または脳卒中の患者の割合は同様でした。
得られたデータに基づいて、「職場の騒音がなければ発症しなかったと推定される患者の割合」を求めたところ、難聴患者では58%、高血圧患者では14%、コレステロール上昇患者では9%になりました。
最後に、対象者全体を、難聴の有無と、職場が「騒音あり」環境か「騒音なし」環境かに基づいて4群に分け、高血圧、コレステロール上昇、冠動脈疾患/脳卒中のリスクを推定しました(下表参照)。その結果、難聴ではないが「騒音あり」環境で働いていた人も、高血圧とコレステロール上昇のリスクが高いことが示されました(冠動脈疾患/脳卒中のリスクも上昇していましたが、統計学的に意義のある差ではありませんでした)。
(データ出典:Kerns E, et al. Am J Ind Med. 2018 Jun;61(6):477-491.)
騒音にさらされると、血圧やコレステロール値の上昇を招く可能性があると言うのなら、煩い都会には住めないが、かと言って秘境暮らしは性に合わない。やはり、静かな地方都市がいいのかなぁ。(笑)