東南アジアの航空各社が繰り広げる運賃競争が業績の足を引っ張っている。エアアジアなど主要5社の2016年1~3月期の売上高合計は前年同期と比べ6.5%の減少。原油安で燃料費負担が減り最終黒字が2.3倍に膨らんだにもかかわらず、4四半期連続の減収となった。エアアジアやセブ・エアなど各社は独自路線の開設で「脱・消耗戦」の道を探るが、燃油価格は足元では上昇しつつあり、成長戦略作りは待ったなしだ。
日本経済新聞社が選ぶアジアの主要上場企業「Asia300」のうち東南アジアを拠点とする航空5社の業績をQUICK・ファクトセットのデータを採用して集計した。
5社の1~3月期の合計売上高は56億4,100万ドル(約6千億円)。格安航空会社(LCC)のマレーシアのエアアジアやフィリピンのセブ・エアは短距離路線を原動力に増収を果たしたが、タイ国際航空など政府系3社は欧州路線で中東系航空会社の攻勢が痛手となり減収だった。
最終損益ベースでは為替変動の影響が大きかったガルーダ・インドネシアを除けば各社とも大幅増益を達成した。5社合計では6億2,400万ドルの黒字。各社のデータがそろう2010年10~12月期以降では過去最高だ。
ただ、それも燃油価格の下落があってこそ。1~3月の平均価格は1バレル約45ドルと前年同期より約4割も下がった。タイ国際航空の純利益は前年同期比32%増だったが、燃料費負担が仮に前年同期と同水準なら48%の減益だ。
「燃料費の下落が運賃引き下げ競争の加速を招く可能性がある」。シンガポール航空が5月中旬に開催した2016年3月期決算の記者会見で、ゴー・チュンフォン最高経営責任者(CEO)は語った。原油安で底上げした利益を原資にこれからさらなる運賃引き下げ競争が起きる――。業界ではこんな懸念が強まっている。
ただ、東南アジアは成長余地があるのも事実だ。野村グループのノムラ・セキュリティーズ・マレーシアによると、東南アの2015年の航空旅客数は5億6,700万人と2010年に比べて53%増え、2016年には6億800万人に達する見通しだ。1~3月期の5社の乗客数で見ても、ガルーダ以外の4社は前年同期から増やしている。
伸びる需要を運賃引き下げ競争に陥らずにどう取り込むか。各社は競合が少ない独自路線の開設に活路を見いだす。
エアアジアはバンコクやクアラルンプールとテヘランを結ぶ直行便を6月に開設。マレーシアと中国の地方都市を結ぶ路線も強化する。セブはダバオなど地方都市とバンコク、香港などを結ぶ国際線を拡充する。ガルーダは2016年に機体を10機増やすが、そのうち9機を傘下のLCCシティリンクに移管し、島と島を結ぶ短距離路線を拡充する。
シンガポール航空も動く。LCC子会社のスクートを活用してインド地方都市を結ぶ路線を開拓する。5月にチェンナイ、アムリツァル線を開設し、10月にはジャイプール線も始める。2017年3月期にスクートの輸送能力を51%高める計画だ。同じくシンガポール航空傘下のLCC、タイガーエアとの統合を進め、運航コストをさらに絞り込んで「中距離LCC」のビジネスモデル確立を目指す。
乗客は価格競争になれば安くなるので喜ぶ面もあるが、航空会社は利益確保が難しい。LCCもより以上の価格競争になれば航空会社の悲鳴が聞こえそうだ。
東南アジアの航空各社も運賃競争での消耗戦を脱し、各社の特徴を活かしての成長戦略を考えているようだ。